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 須藤会長宅からの帰りは、珍しくベルモットの運転だった。すでに大女優シャロンの変装は解いている。いつも通りのベルモット。やっぱり私はこっちの姿の方が好きだ。
 車の中で二人っきり。無言が続いた。おそらくベルモットは私に何か言うことがあるんだろうと当たりをつけて私は黙っていた。
 まさかベルモットが言いよどむわけはない。これがバーボンなら、何か言いづらいことでもあるのかと心配するけれど、ベルモットなら私に遠慮するはずがない。ベルモットは優しい。だけど、それは張りぼての優しさだ。私がベルモットの計画通りに動かないと、すぐに見捨てられるだろう。ベルモットは冷酷な人で、バーボンと違って人間臭さを感じない。誰の言葉も信用していないような態度が、まさに裏の組織の人間っていう感じで、安心すら感じる。そこに安心を感じちゃいけないんだけど。
 いったいベルモットは何を言うんだと待ちかまえているうちに、高速を降りて下道に出た。しばらく走り、もうすぐ研究所に着くという頃になってようやくベルモットは口を開いた。

「ねえ、最近ライと一緒に任務に行った?」
「行ってないよ。ライがどうかしたの?」

 まさかライのことを聞かれるとは思わなくて驚いた声が出た。
 ベルモットは大した用でもないように「なんでもないわ」と軽く言うが、なんでもないことをベルモットがわざわざ話すはずがない。それも二人っきりになるようにしてまで。
 私の考えは当たっていたようで、ベルモットは静かに「ライには会った?」と聞く。

「顔を合わせるくらいは」

 ちょうど、信号に引っかかって車が停車した。ベルモットが私の目をじっと見つめる。蛇に睨まれた蛙の気分だ。ベルモットは睨んではないけれど。
 ただ感情のこもってないで見る。数秒経って、やっとベルモットは「そう」と言って顔を背けた。
 ライのことで知っていることなんてほとんどないから、別に何を聞かれても私はかまわなかった。痛い腹を探られているわけではない。それでもどきどきした。
 再び動き出した車に、ほっと息を吐いた。
 ライは何かやらかしたのだろうか。こんなにベルモットが警戒するなんて変だ。
 本部で、それもジンのいる前で尋問されないということはベルモット以外はライを警戒していないということか。
 ライが何をしたのかは知らないけれど、もしライが処分されることになったらまたバーボンが悲しむからやめてほしい。トリオの任務が多かったらしいのに、自分以外組織に殺されるなんてさすがに可哀想だ。そんなことになったらバーボンまで組織に反感を持つようになって反乱しかねない。そうなったら私の立場が危うくなってしまう。
 あんなに親切にしてくれるのに素直にバーボンの心配ができなくて申し訳ないけれど、犯罪組織の人間の身より我が身の方が可愛い。
 ベルモットの横顔を見つめていると、ベルモットは鬱陶しそうに息を吐いた。

「別になんでもないわ。ただ……」

 ベルモットは僅かに言葉を躊躇ってから「スコッチの持ち物からスマートフォンが消えていたの」と続けた。
 スコッチって、そんな何ヶ月も前の話を蒸し返されるとは思わなかった。

「どこかから発見されるかと思ったけれど、どこからも出なかったのよ。スコッチが事前に処分したんでしょうけど、スコッチを最後に見たのはライだったから、まさか、と思っただけで何も知らないなら別にそれでいいわよ」

 やはり組織全体の疑問ではなく、ベルモット個人のものだったようで安心した。
 組織に忠実なライが組織を裏切るとは思えないから、きっとスコッチは先んじて処分したのだろう。きっとそうに決まっている。
 車はいつの間にか研究所の前に到着していた。降りようと、ドアに手を伸ばすとベルモットが私の名前を呼んだ。

「そう言えばジンに頼まれていたんだったわ」
「何を?」
「あなたの見た目なら、無理に裏社会と繋がりのある人を選ぶのはやめなさい。それに大物を狙うのも。ただし、その見た目を無駄にするような小物もだめよ」

 「それだけよ」と、言外に「早く出て行け」と言われたのでよくわかっていないまま、「はあい」と返事をして車から降りた。
 ベルモットの運転する車は、まったく私にかまうことなく走り去っていった。
 ベルモットの言葉を思い返しながら私は部屋に戻り、ベッドに飛び込みながらやっとその言葉がコネの人選の基準だとわかった。察しの悪さはリボーンに太鼓判を押されている。もっと優しく教えてほしい。
 天井を見上げながら、ベルモットの言うアドバイスはもっともだと思った。だけど言葉にして要求されるとハードルが上がってしまう。裏社会と関係がなく、それなりに大物の人物を狙えって無茶すぎる。
 いつからか、私の人間関係は裏社会でしか形成されていなかった。表社会の人脈の作り方なんてもう忘れてしまっていた。

ヒトリヨガリ