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 スマートフォンを片手に、ベッドに腰掛ける。スコッチからもらった白いソファーは座り心地は抜群だけど、スコッチのことを思い出してしまうからあまり座らなくなってしまった。元々、そのまま倒れ込めるベッドに座る方が好きだったけれど。
 バーボンは最近ようやく立ち直ったのか踏ん切りがついたのか、私の前で沈痛な面持ちをすることはなくなった。もしかしたら隠しているだけかもしれないけれど、隠せる余裕ができただけでも十分だ。任務のお迎え以外でバーボンがここに来ることがなくなってしまっていたけれど、もう少ししたらまた前のように話し相手になりに来てくれるかもしれない。そのときはスコッチの思い出でも話したいな。今まではスコッチのことを偲ぼうにも、バーボンの前じゃ禁句のようなものだったしライは処分した張本人だし、ジンやベルモットはそんな話の相手をしてくれるはずなかった。
 音のない息を吐いて真っ黒なスマートフォンの画面を見る。ロッシから連絡が来ることはない。いくら休職中だとはいえ大人だったら忙しいだろうから私も連絡をしていない。
 ――パイプを作れって言われたって。
 自然に接触できるレベルの人なんてたかがしれている。元の姿ならゼロから関係を作ることなんて造作もなかったけれど、今じゃ難しい。
 うーん、と唸りながら意味もなくスマートフォンの画面をつけたり消したりを繰り返した。
 ――やっぱり、ロッシから広げるか。
 そう思ってアドレス帳を開いたが、忘れ去っていた十一桁の数字を思い出した。語呂に当てはめて覚えたその数字をタップして電話のマークを押した。
 もう日が暮れ始めた時間だから、用事がなければ出てくれるだろう。
 何度目かの呼び出し音のあと、「もしもし?」と少年の声が聞こえた。
 
「もしもし愛子です。平次お兄ちゃんですか?」
「ああ、せや。久しぶりやな」
「うん久しぶり!」

 山形県のスキー場で出会った大阪の少年。彼は父親が警察関係者だと言っていたはずだ。すぐには使えなくても、後々使える繋がりができるかもしれない。

「全然電話してくれへんから忘れられたんかと思ったわ。和葉も心配してたで」
「ごめんね。やっと携帯電話を買ってもらったの」
「じゃあこの番号は嬢ちゃんの番号なんやな。登録しとくわ。……和葉にも教えてええか?」
「うん、もちろん!」

 服部くんのイントネーションも、遠山さんの名前も懐かしい。さっき「久しぶり」と言ったけれど、もうあれから四ヶ月も経ったのだと実感する。
 ――そんなに経ったんだからバーボンが立ち直るはずだ。
 電話をかける前まで考えていたバーボンの様子を思い出しながら服部くんに話しかける。

「平次お兄ちゃんは今おうち?」
「せやで。なんかあるんか?」
「あのあと、何か事件があったら教えてほしいなって思ったんだけど……」

 あのときと同じように好奇心旺盛な子どものフリをする。前は暇つぶしのためだったけれど、今回は服部くんと仲良くなるためだ。
 予想通り服部くんは得意げな声で「ああ、あったで!」と勢いよく言った。
 服部くんのような自尊心が強いタイプは武勇伝を話すのが大好きだ。それに服部くんの場合は周りが服部くんに呆れているような雰囲気だったから話したくて仕方なかったのだろう。
 それにしたって、そんなに話していいのかと思うくらい服部くんは事件の話をする。四ヶ月じゃ間に春休みがあったのもあって事件が少ないみたいで、服部くんと会うまでの事件も遡って教えてくれた。さすがに中学生の解決する事件だから、探偵映画みたいな大きな事件はないみたいだけれど。
 別に事件自体に興味のない私は話半分で相づちを打つ。

「と、まあこんなもんやな」
「そんなたくさん事件を解決したんだね。すごい!」
「せやろ! それやのにクラスのやつらは、ただのごっこ遊びやと思ってるからかなわんわ」

 心外だと言いたげな声にバレないように笑った。クラスメイトの気持ちが理解できる。私も綱吉に巻き込まれてもマフィアごっこだと思っていた。いや、私の場合は現実逃避か。なんにしても「普通、中学生が事件を解決するはずない」「普通、探偵になりたいなんて思わない」と思われているのだろう。それを私は悪いことだとは思わない。「普通」というものの中にいると平和だから。
 服部くんは不満そうだけれど、きっと彼だって大人になれば普通ということがどれだけ楽なのかわかるだろう。私は普通の中から弾き出されてしまったから、余計にそう思う。
 まだ文句を続ける服部くんを落ち着けるために「そういえば」と話の腰を折った。

「平次お兄ちゃんは何か特技ってある?」
「剣道はやってるけど、それがどうしたんや?」
「ううん、なんでもない。今度、応援に行くね」

 服部くんが使える人間かどうか知りたかったけれど、それ以上の収穫だ。試合の応援なら大阪に行く言い訳にもなるし、距離も縮まる。
 私の下心なんてちっとも気づかず、服部くんは嬉しそうに「おう!」と返事をした。

ヒトリヨガリ