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ロッシの後ろを追っていると扉の開いているコンテナがあった。怪しさ満点のそのコンテナの中から男の声が聞こえてくる。ロッシは躊躇うことなく中に入ってしまった。ロッシは服の上からでも鍛えていることは見て取れていたけれど、おそらく今回のこの犯人はただの愉快犯ではない。いくら腕に覚えがあっても一般人のロッシじゃ太刀打ちできないだろう。
ロッシの手助けをするために私も中に足を踏み入れた瞬間、扉が閉まり暗闇に包まれた。
「な、なんだ」
「ロッシ、落ち着いて」
ロッシの腕を掴んで、ぐっと抱き寄せた。
周囲に気配を読んでいると、ぱっと蛍光灯がつき今までいなかった外国人らしき中年の男が立っていた。男は黒いトレンチコートに、中は洒落たスーツを着ている。まだその男の声は聞いていないが、にやついた顔は電話の声に似合いそうだ。
ロッシは男を訝しそうに見ていることから、やっぱり親友ではないことがわかった。
「やっぱり。……お前、藤咲愛子の娘だろう?」
男は私の顔をじっと見つめながら言った。
ちらりとロッシが私を横目で見てきたが、私のフルネームを出された今、ロッシに構ってられない。不幸中の幸いは、藤咲愛子と私が同一人物だと気づかれていないこと。
「お前に恨みはないが、お前のお前の母親に世話になったからな」
「……ママがあなたに何をしたの?」
「ふん、お前みたいなガキに言ったってわからねえだろうが!」
男が叫ぶと鋭い氷の塊が数本、男の後ろから飛んできた。それらの狙いがロッシだと気づいた瞬間、「ロッシどいて!」と掴んだままだった腕を引っ張って私が前に出た。そして目の前にシールドを出してガードするが、氷は方向を変えて横から回り込んでくる。しかたなく地面から火柱を出して氷を溶かした。
「なるほど、娘のお前も幻術使いというわけか。……まあいい、冥土の土産に教えてやるよ。お前の母親は汚い鼠だ。会社に潜り込んでこそこそと情報を盗んでたんだよ。おかげで会社と繋がっていた俺らのファミリーは大損だ。まあお前の母親にしてやられた会社も今は職種を変えて復活したから、また俺らと手を組んで返り咲いてやるけどな!」
どこかで聞いた話だ。マフィアと繋がっていた会社と藤咲愛子――。
「リーペロ」
私の呟いた単語にぴくりと男が反応した。
そうだ。ベルモットに紹介された須藤会長から聞いた話だ。
厄介なファミリーと繋がりのあった不動産会社のリーペロに私はかつて潜入した。そして回り回ってリーペロを経営破綻させたが、今は同じブランド名でアパレル会社を建てたと言っていた。
この男は、そのリーペロからお金を受け取っていたファミリーの人間だったのか。そして、またリーペロと手を組んだ。どおりで服が洒落ていると思った。
「返り咲くなら、どうして私を狙うの」
どんな組織だって損するリスクがある。覚悟もなく裏の世界で生きてきたわけではあるまい。
「リーペロを担当してたのが俺の兄弟だった。そのせいでリーペロが経営破綻したときボスから粛清されたんだよ」
「逆恨みかよ」
ぽろりと零れたロッシの言葉に、男は逆上して「ああ、そうだ逆恨みだ! 家族を殺された苦しみをあの女にも味わわせてやるんだよ!」と喚きながら四方八方から氷の塊を飛ばしてくる。それらを逃げながらさっきと同じように火柱で防ぐがロッシの前で最大力の力を使うことはできず、すべてを溶かすことはできない。幻術耐性のないロッシは、強い幻術のそばにいると幻術汚染されてしまうからだ。しかたなく蔓を出して氷を弾くが、地面に落ちた氷は床を凍らせ逃げ場が減っていく。
防御一手なのは、私は幻術攻撃が苦手だからだ。幻術で戦う際は、思いきりが大切だけど私は相手を殺す気で攻撃なんてできない。回避の合間に蔓で男に攻撃してみるが、やはり殺意のない幻術は簡単に避けられる。直接攻撃しに行くのが一番だがロッシを庇いながらじゃそれも難しい。
随分と男から距離ができたころ、ずっと私の後ろにいたロッシが呆然とした様子で口を開いた。
「お前、何者なんだ」
もう今さら隠すことなんてない。
くるりとロッシを振り返って、七歳の姿に似つかわしくない、したり顔で笑ってやった。
「藤咲愛子。ボンゴレだよ」
といっても一般人がボンゴレを知るはずないかと心の中で苦笑するが、ロッシはボンゴレに聞き覚えがあったようで目を見開いた。ロッシこそ何者なのかと聞き返そうとしたが、視界の端に氷の龍が写った。今までより迫力のあるサイズに、慌ててシールドと火柱の両方を出すが氷の鱗が削れるくらいで完全に溶けきらない。
そうこうしている間に龍は間近まで迫っていた。有幻覚でもない龍は私にとっては驚異ではないが、ロッシがこれに襲われたらひとたまりもない。幻術汚染なんて気にせず最大火力を出そうと両手を龍に向けたが、幻術を発動する前にロッシが私を突き飛ばした。
軽い私の体は簡単に吹っ飛び、空中で回転して受け身を取ってからロッシを睨んだ。
ロッシはさっきまで私がいたところに踞っている。腕には血が滲んでいた。
「どうして庇ったの!」
龍は消えておらず、旋回して勢いをつけてまたロッシに向かっている。それをシールドと蔦で雁字搦めにして動きを止めるが、龍の力が強くて完全には止まらない。
ロッシはよろけながら立ち上がり、長い溜め息を吐いた。
「ボンゴレでもぼんじりでも、警察が、子どもに黙って守られてるわけにはいかねえだろ」
「警察!?」
突然のカミングアウトに叫んでしまった。
龍以外に飛んでくる氷を弾いたり潰したりするが、ロッシと距離ができてしまったため彼を守りきれない。
「私はこんな姿だけど大人なの! どうせロッシは気づいてるんでしょ」
「だからってガキに守られてるのを誰かに見られるかもしれねえからな」
「密室なんだから、あの男以外に見られないよ!」
「うるせえ、黙ってろ。それと俺はロッシじゃなくて松田陣平だ。よく覚えとけ」
防ぎきれなかった氷をロッシ改め松田陣平は蹴り飛ばした。そのせいで足が凍ったが、すぐに壁に足を叩きつけて氷を砕いた。
「ほら、どうにかなるだろ。お前はあの龍をどうにかしろ。さすがにあれに俺は手出しできねえ。俺はあの男を直接殴り飛ばしてきてやるよ」
サポートは頼んだと言い残し、男の方へ駆けていった。それと同時に龍も松田を追いかけようとする。幻術使いの私より、弱そうな松田を先に狙おうというのか。
すぐさまさっきより太い蔓で拘束し、最大火力の火をぶつけた。暴れる龍のせいで熱風が襲いかかってきた。