06

「なんですか! このゴミは!」

 部屋に入ってきたバーボンは、開口一番にそう叫んだ。
 バーボンの視線の先にはベルモットから貰ったケーキやスイーツの箱の数々。初めてベルモットからタルトケーキを貰って以来、私の主食はケーキになった。だって、ここのご飯って非常食みたいなパサパサした固形物ばっかりなんだもの。同じ非常食でもパスタやリゾットみたいなものもあるだろうに、なんでよりにもよって不味いものを選んだんだ。そんなことを言い訳としてバーボンに言うと押し黙った。

「僕が任務で日本に帰ってる間、いい食事ができているとは思ってなかったが、ここまで酷いとは……」
「え、バーボン日本に行ってたの? ねえねえ、お土産は?」

 口うるさそうなバーボンから話題をそらすためにお土産を催促してみた。ほんのちょっと、本気でお土産を期待したけど。
 バーボンはわざとらしく溜め息をついて「あるけど渡さないよ」とゆっくり、目を閉じて言った。

「ええー、ケチ。買ったのならちょうだいよ」
「ダメだ。僕が買ったものもお菓子だからね。ベルモットから貰ったケーキをこんなに食べたのなら今はいらないだろう?」
「いるよ、欲しい! だってお腹すいてるもん」
「……お腹がすいてる?」
「あ」
「どうしてお腹がすいているんだ? もうお昼過ぎだぞ? さっきお昼ご飯を食べたのなら、おかしくないか?」

 尋問のように威圧的に、矢継ぎ早に聞いてくるのでつい気がゆるんで視線がテーブルの上の紙袋の方にいってしまった。探偵小説で犯人がつい証拠の方を向いてしまう気持ちがよくわかった。
 見るからに頭の良さそうなバーボンが、私の一瞬の視線に気づかないはずがない。すぐに私から離れてテーブルに近づき、紙袋を手に取った。そして紙袋の中を覗きこんだ。それが嫌にゆっくりに見えた。

「なんだ、これは」

 わかってるだろうに聞いてくるなんて、意地悪な人だ。

「今日の朝ごはんと昼ごはん……です」
「今日の分だけじゃないだろう。数日分ある。どうしてごはんを食べずにケーキばっかり食べてるんだ」
「……だって美味しくないんだもん」

 怒るバーボンの迫力があまりにも怖くて、涙が溢れそうになる。だけどさすがに大人の意地で涙なんて流したくない。絶対に泣くものかと、下瞼から涙がこぼれるのを必死に耐えていると、バーボンの怒気がやわらいだ。そして、さっきとはうって変わって「そんなに不味いのか?」と心配そうに聞いた。
 さすがに五歳の子どもが涙を浮かべているのに怒ることなんてできないのだろう。そういうところも組織の人間っぽくないところだ。

「一日目は頑張ったけど、二日目からは食べられなかった。ベルモットは栄養があるって言ってたけど。……昔に食べた不味いジャムの味みたいだったの」
「不味いジャム?」
「うん。なんだっけ……マーマレードじゃなくって、マ、マ……マーマイトだ!」

 本当にマーマイトみたいな味がした。マーマイトとは、イギリスのジャムで、とてつもなく不味いことで有名なのだ。味は、例えるなら、ビールを飲んで酔っぱらって寝たおっさんの翌日の口の中みたいな味。
 二度と食べるものかと思ったマーマイトが、再びよみがえったような絶望感に打ちひしがれてしまったのだ。
 それを聞いたバーボンはどこか同情したように私を見たが、「でも」と口を開いた。

「食べないと回復しないよ。ケーキは食べずに、美味しくなくても一口でもいいから食べて。……とりあえず今は」

 バーボンが紙袋から、ビニールでパッケージされたスティック状のそれを一つ取り出して私に渡してきた。非常に受け取りたくないけど、受け取らないと問答が続くことは容易に想像できたので、渋々受け取った。

「料理はどうにかするから。今はそれで栄養取っといて。……あと、もう起き上がれるだろう? ちゃんとケーキの箱を片付けないとダメだろ。僕は愛子の世話係だけど、お母さんになったわけじゃないからね」
「はーい」

 そのあとに「夕食までに部屋を片付けとくだぞ」と言い残して部屋を出ていった。最後まで小言が多かった。
 バーボンのことだから、夕食の時に部屋が片付いているかをチェックしに来るに違いない。そのときに散らかっていたら、今の比ではないほどの小言が飛んでくるだろう。しかたなく、ベッドからおりて散らかった部屋を片付けることにした。

ヒトリヨガリ