09

「みんな黒色が好きなの?」
「別に好きなわけでじゃないけど」

 右手にアイスクリーム柄のガーリーなスカート、左手に黒色のシックなスカートを持ちながらバーボンに聞けば、歯切れの悪い返事が返ってきた。
 今日は研究所の近くにある服屋さんでバーボンと買い物。二人で出掛けているようだけど、外には組織の人っぽい人がいる。散歩以外で研究所から出るのが初めてだから、私が変なことをしないように見張っているのかもしれない。
 見張られているのに気づいていないフリをして、バーボンに聞いた。

「じゃあ黒色じゃない服を買っても怒られない?」
「怒られはしないさ。……でも、みんなと会うときやちゃんとしたときは黒色の服がいいかもね」
「みんなと会うとき? みんなって?」
「ああ、そっか。愛子はまだ僕とベルモットにしか会っていないのか。これからは他にもいろんな人と合うことになる。そのときは黒色の服の方がいいだろうな」
「ふうん、じゃあ黒を買った方がいい? でもこの黒のスカート可愛くないんだよね」

 両手に持ったスカートを見比べて、やっぱりアイスクリーム柄のスカートをバーボンの持つかごに入れた。そして左手の黒のスカートは棚に戻した。黒はかっこよすぎて、あんまり私には似合いそうになかった。
 代わりに五歳の女の子が選びそうな黒の服がないか店内を探す。私が本当に五歳だったころはピンクの服や、キラキラしたスパンコールのついた服を着ていた。黒色の服なんて発表会のときくらい。それだって全身真っ黒じゃない。
 黒と白のギンガムチェックのブラウス、黒地に白の丸襟のブラウス、黒地に白の水玉のスカート。選んだ服を見比べる。これくらいだったら五歳の女の子が着そうかな。黒の割合は低いけどしかたがない。これが組織と私の妥協点なのだ。
 選んだ服がバーボンに見えるように腕を上げた。すると服を見たバーボンは無言で頷いてかごを近づけてきたので三着をかごに入れた。一応散歩用に誰かが買ってくれた服が部屋のクローゼットに数着あるから、こんなものでいいだろう。
 かごに入った服を見たバーボンが「他にも欲しいものがあるなら買うといい」と言ってくれたので、大喜びでアイスクリーム柄のスカートに合う服を探して店内を歩き回った。

「愛子は何色が好きなんだい?」
「空の色かな」
「空の色? 青や水色のこと?」
「うん。でも青空の青色とか水色だけじゃなくって、夕方の赤やオレンジや紫色も好きだし、雨の日の白や灰色も好きだよ」
「そんなにいっぱい好きな色があったら、服を選ぶときに迷うね」

 一緒に服を物色しているバーボンが、赤と水色の服を見せながらそう言ったので、私は迷わず水色の服を手に取った。

「迷わないよ! だって一番好きなのは水色だから。綺麗で優しいから好きなんだ!」
「水色が優しい?」
「優しいよ。青空はみんなを包んでくれるんだって」
「何か本にでも書いてあったのか?」
「ううん、そう言ってる人がいたんだ」

 バーボンから受け取った服を見ながら綱吉を思い出す。だけど、この服は綱吉の青空の水色とは少し色が違う。青空の鮮やかな水色とは違って少しくすんでいる。この落ち着いた色合いの水色、どこかで見た気がするな。
 自分から話を振ったのに、あまり興味のない様子のバーボンを見上げて既視感の正体がわかった。

「バーボンの目」
「え、何か言ったかい?」
「バーボンの目も水色だね。じゃあ、バーボンの目は優しい色の目ってことになるね」
「そう言われると、なんだか恥ずかしいな」
「いい色だよ」

 笑いながらバーボンの目を見上げると、本当に照れたのか顔を背けた。そして、ぶっきらぼうに「ほら、早くしないと人通りが多くなる時間だ」と言ってレジの方に行くので、慌てて水色の服をかごに投げ入れた。
 たくさん服を買ってもらえて、バーボンの新しい一面も見られて今日はとても楽しい一日だ。これで、外出の時間がもっと長ければ言うことなしなのに。

ヒトリヨガリ