19

 心配そうな表情のバーボンが部屋に押し入ってきてから数分。見つめ合ったまま時間だけが過ぎていく。
 部屋に入ってきてからバーボンは何も話していないので、どうしてそんなに我慢しているような顔をしているのかわからない。なんだ、トイレに行きたいのに間違えたの? なんて冗談言いたいけれど、生憎言える雰囲気じゃない。
 誰か助けて、という願いが通じたのかドアをノックする音が響いた。一応バーボンに一言だけ告げてから玄関に向かう。
 ドアを開けたらスコッチが大きな段ボール箱を担いで立っていた。

「やあ愛子」
「スコッチ、こんにちは。その荷物なに?」
「一人がけのソファーだよ。バーボンに愛子の部屋にはソファーがないって聞いていたから、必要かと思って」
「うん? たしかにソファーはないけど、でもどうしてスコッチが?」
「ライから愛子が写真の男を見つけたって聞いたから、初任務成功祝いだ。バーボンも一緒に祝う予定だけど、まだ来てないのかい?」

 初任務祝い、それでバーボンが来たのか。バーボンが来た理由はわかっても、沈んでいる理由はわからないまま。
 「来てるのは来てるよ。……まあスコッチも入って」と、スコッチを中に促した。部屋に入ったスコッチは、ベッドに腰かけて暗い表情のままのバーボンを見て、驚いて声を上げた。

「バーボン!」

 手近なところに段ボール箱を置いたスコッチがバーボンに駆け寄った。その声でようやくバーボンの意識が戻った。
 バーボンは目頭をほぐしながら「ああ、考え事をしていた……。悪いな愛子」と軽く笑った。その表情には少し疲れが見えたけど、それを私に悟られたくないようだったので口をつぐんだ。
 立ち上がったバーボンは、ぐっと伸びをしてから私と同じようにスコッチに段ボール箱のことを聞いた。「ソファーだ」という短い返答に納得したバーボンはスコッチが段ボール箱からソファーを出すのを手伝った。
 大人の男が二人でやれば、あっという間に部屋の真ん中にソファーが現れた。どっしりとしたソファーだけど、白色だから圧迫感はあまりない。ホテルのような内装にピッタリなデザインでセンスがいい。
 スコッチに促されてソファーに座ると、思ったより体が沈んでボフンと音が出た。ふかふかのクッションが全身を包み込んでいるみたい。

「座り心地はどう?」
「すっごくいいよ! ふかふかだ〜。ありがとう」

 感触を確かめるために、ぼふぼふとソファーの上でバウンドすると、スコッチは「喜んでもらえてよかったよ」と笑った。そのあとスコッチは「バーボンも用意するって言ってたけど」と、困ったようにバーボンを見た。バーボンは何も持っていない。いつものバーボンなら、きっとスコッチに負けないくらいセンスのいいものをくれるのに。やっぱり、今日のバーボンはおかしい。
 私とスコッチの視線に、バーボンは肩をすくめて「ごめん」と一言謝った。

「別に怒ってないよ」
「用意はしてるんだけど忘れてきたんだ。今度持ってくるよ」
「うん、ありがとう。……ねえバーボン、大丈夫?」
「何が?」
「いつもと違うよ。ねえスコッチも変だと思うよね?」
「ああ、心ここにあらずって感じだね」
「なんか悩み事? 誰かにいじめられてる?」

 「いじめられてる」という言葉でバーボンは噴き出した。私は真剣に心配しているのに。むっと口を曲げると笑いながら軽く謝ってきたけど、バーボンの後ろでスコッチもケラケラと笑っていて全然悪いと思っていないのが丸わかりだ。
 ソファーに座ったまま、足の届くバーボンの脛を蹴ったらまた笑われた。だけど、さっきまでの暗い表情が消えているからまあいいか。本当はどうして暗い表情をしていたのか教えてほしいけど、きっとバーボンは教えてくれないだろう。プライド高そうだし。

「もう、せっかく許そうと思ったのに、そんなに笑うなら許さないからね!」
「ごめんごめん。ほら、機嫌なおして」
「機嫌なおす代わりに、次に会うときにケーキ持ってきてよ。バーボンが作ったやつね!」
「え! ケーキ?」
「いいじゃないかバーボン、愛子を心配させたんだしケーキくらい作れば」
「スコッチ……簡単に言うな」
「そうだ! スコッチも笑ったんだからスコッチもケーキを作ってよ。バーボンの手伝いね」

 笑顔でスコッチを見れば、ピチリとスコッチの動きが止まった。バーボンは顔を背けて笑った。

「あー、……わかった。バーボンと一緒に作るよ」

 観念したスコッチが苦笑いを浮かべながら頷いた。案外簡単に了承して驚いた。
 二人がいつ暇かを話し合っているのを横目に、今後の私の動き方を模索する。写真の男は残り二人。その二人の身元を調べてみるべきだろう。もしかすると、厄介なことになるかもしれない。

ヒトリヨガリ