20
クローゼットからお洒落なワンピースを取り出して頭から被る。鏡の前でくるくる回っておかしいところがないことを確認してから、大きな鞄に書類を詰め込んだ。体が透明になるように術をかけて、部屋から出ようとして大事なことを思い出して部屋に戻る。丸めたバスタオルを布団の中に入れて術をかけると、あっという間にバスタオルが眠っている私の姿になった。
「よし」
何も失敗していないことを何度も確認してから、そっと部屋を出た。このフロアはいつも人気がないから危険は少ないけれど、それでも警戒するに越したことはない。
階段をかけ降りて、他の人が出るタイミングで私も自動ドアから出ると、簡単に外に出られた。
同じように人の後ろにピタッとくっついて電車に乗り、何駅かで懐かしい並盛に着いた。
並盛中学まで歩くと、一台の黒い車を見つけた。窓にはフィルムが貼られていて中が見えない。だけど、この車が目当ての車だろう。近寄ってノックをすると、すぐにドアが開いた。
ドアの中は車内ではなく、どこかのオフィスの一室。懐かしい並盛中学の応接室に似ている。
「やあ」
正面の机に座る雲雀くんは、最後に会った数ヵ月前と変わらないまま。
「久しぶり、雲雀くん。変わってないね」
「愛子は随分変わったね」
「あー……、色々あって」
「綱吉から聞いているよ。日本の組織に潜入しているんだろう?」
「そうそう。それで雲雀くんにちょっと協力してほしいことがあって今日来たの」
鞄から書類を出して、雲雀くんの前に出した。クリップでいくつかの束になった書類を適当に並べ替え、写真のくっついた二束を見えやすいように置く。
「見覚えは?」
「こっちはうちの奴だね。そっちの外国人は知らない」
「だろうね。そっちはボンゴレにも風紀財団にも関係ない男だから」
「ふーん。……で?」
「次にこの二人が殺されそうだから身元を調べてみたら風紀財団のスパイってわかったから、助けるために雲雀くんに協力を要請しに来たの」
「うちの男は協力するけど、そっちの男はどうして僕が助けないといけないんだい?」
そう言うだろうと思って、すでに手は打ってある。男の写真のついている書類をめくり、外国人の男のプロフィールを指差して見せる。
「FBI?」
「そう。組織を嗅ぎ回っているFBIらしい。この男を助けてFBIに恩を売る気はない?」
「ない」
「ええー、FBIだよ? アメリカだよ?」
「僕がいる並盛にアメリカなんて関係ないよ」
どや顔で言う雲雀くんにため息が漏れた。まあ、風紀財団の一人が助けられるだけでもよしとするか。
FBIの男の書類は横に避けて、風紀財団の書類をめくる。
「この男は、私が潜入している黒の組織とは関係ないんだけど、たまたま男のやってることが組織にとって都合の悪いことだから消そうとしてるの。でも、今さら手を引いたところで狙われたままだから、殺されたフリをしてほしいのよ」
「ふうん」
「雲雀くんだったら、この男に連絡できるでしょ? 先に手筈を伝えてほしいの」
一通り書類に目を通した雲雀くんはつまらなさそうに「いいよ」と軽い口調で了承した。つまらなさそうなのは、きっと雲雀くんが暴れられないからだろう。風紀財団の男を助けるのは、ほとんど私の幻術だから。あ、それなら――。
「FBIの男を助けるのに、雲雀くんも参加する? FBIに敵対する勢力のフリしてFBIの男を消して、ついでに黒の組織のやつらをバキバキにやっちゃうのはどう?」
「ワオ、いい案だね」
よし釣れた!
もちろんFBIの男を消すのはフリだけだよと雲雀くんに念を押した。FBIを救出して、ボンゴレの名前を売ろうとしているのに、雲雀くんにボコボコにされたら堪ったもんじゃない。
ついでに風紀財団の男もちゃんと無傷で返すからねと言うと、雲雀くんは鼻で笑った。
「それで死ぬような奴、僕のところにいらない」
「あー……ははは、もうちょっと雲雀くんは部下に優しくしようよ。綱吉までとは言わないけど」
「優しさなんて僕には必要ないよ」
「うーん、まあ雲雀くんが優しくても怖いけど」
「それより愛子はいつまでその姿なんだい?」
「わからない。今までより長い潜入捜査になるってリボーンが言ってたから一年はこのままかな」
「そう……。困ったら僕のところに来なよ」
ひ、雲雀くんが優しい……。
優しくしようよとは言ったけれど、こんな急に優しくするなんて。それも私に。どきまぎしながら「困ったら、頼るね」と答えると、雲雀くんは満足そうに薄く笑った。
珍しいものを見た。固まったまま雲雀くんを見ていると、雲雀くんが腕を伸ばして私の頭を軽く撫でた。
「今度は昼間においで。夜じゃヒバードが眠っているからね」
これは完全に小動物扱いだ。そういえば昔から小動物に優しかったし、小さな子どもにも割りと優しかった。
「あ、うん」
まあ、でも怖いより優しい方が断然嬉しいから、このままでいいや。髪をかき回す雲雀くんの手を甘受しながらそう思った。