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 雲雀くんの部屋に行ったときと同じように、帰りも幻術の扉を使って並盛中学の前に戻り、体を消してから駅まで歩いて行こうとすると、低い声に止められた。

「愛子さん、待ってください」

 車を振り替えって見ると、車の影に草壁くんが立っていた。
 体の透明化を止めて「なに?」と尋ねると、草壁くんは「送っていきます」と言って手に持った車のキーを見せてきた。これはありがたい。断る理由なんてないので笑顔でお願いすると、草壁くんも口元を少し上げて笑った。
 車は幻術で風紀財団への扉にしていた車だった。車のキーで普通の車と扉とを替えているみたい。よく考えているなあと感心しながら車に乗り、暗い並盛を滑るように流れる窓の外を眺めた。
 草壁くんは無口なわけではないけれど、時間が夜中ということもあってあまり話しかけてこない。ポツリポツリと近況を聞いてきたり体調を聞いてきたりするのを答えて、のんびりと雑談するだけで車内はすごく静かだ。穏やかな空気に緊張がほぐれて、だんだんと眠くなってきた。だけどここで眠るわけにはいかないので必死にまぶたを上げる。
 眠さがピークに達してぼーっとしていると、微かに笑い声が聞こえた。

「くさかべくん?」
「ああ、すみません。微笑ましいなと思って」
「うん?」

 草壁くんが話していることがモヤがかって聞こえる。集中しないと聞き取れない。

「そうしていると、昔愛子さんが小さくなってしまったときのことを思い出します。しばらく愛子さんを恭さんが預かってましたからね、あのときの恭さんは随分愛子さんの扱いに困ってたのも微笑ましかったんですよ」
「……うん、うん」
「大丈夫ですか?」
「……うん?」
「着くまで寝ていますか?」
「うーん、だめ」
「ダメ?」
「寝たら……起きられない、から、頑張って起きてる」
「そうですか、頑張ってください」

 草壁くんの声が楽しそうに揺れた。ダメだ、これ以上ジッとしていると寝てしまう。部屋に置いてきた私の分身は寝る以外の動作をしないやつだから、ここで寝てしまうと明日の朝に誰かが部屋に入ってきたらバレる可能性が出てくる。それだけは阻止しないと。寝落ちで正体がバレるなんてリボーンに殺されちゃう。

「くさかべくん」
「なんですか?」
「寝ないように、着くまで喋ってたいの。付き合って」

 すでにまぶたは落ちていて、うつらうつらとした状態で言ったので草壁くんは声をあげて笑った。笑われたけれど、それがバカにしたような笑いじゃないことがわかっているので気にならない。
 草壁くんからの返事はないけれど、その笑いを了承と取って勝手に話し出すことにした。

「あのね、今組織に潜入してるんだけどね」
「はい」
「バーボンっていうコードネームの人と仲良いの。すごくいい人で、絶対骸よりもいい人なんだけどなんか怪しいのよ」
「怪しいんですか」
「うん。優しいのは他の人も優しいんだけど、それは私に取り入りたいからってわかるの。でもバーボンはそういう感じがなくて、なんていうか、純粋に優しいって感じなんだけど、それが逆に怪しくて。……こう、ロリコンっぽいの」
「ロ、ロリコンですか……、それは気を付けないと危ないですね」
「そうなの。それに最近知り合った人も私のことジロジロ見てきてロリコンっぽいし、なんかあの組織怖いわ」
「はあ……、確かにそれは怖いですね」

 まさかロリコンの話をされると思っていなかっただろう草壁くんは少し戸惑っているけれど、気にしない。というより気にしてられない。眠すぎて、だんだん何の話をしているかわからなくなってくる。とりあえず口が止まったらそのまま寝てしまうので喋り続けるために、脳を働かせる。

「ロリコンっぽくない人もいるんだよ。スコッチって言うんだけど、空気はバーボンに似てるんだけどあんまりロリコンっぽくないの」
「それはいいですね」
「昨日、バーボンとスコッチの作ったチーズタルト食べたんだー。美味しかったよ。簡単に作れるらしいから、今度綱吉に作ってもらおうかな」
「ははは、作ってあげるんじゃないんですね。愛子さんらしい」
「うん。作ってもらう。作るより食べたいもん」

 バーボンとスコッチはチーズタルトだったから、綱吉にはチョコタルト作ってもらおうかな。
 バーボンとスコッチを困らそうと思ってケーキを作るように言ったのに、市販のクッキーを砕いたタルトを使ったチーズタルトなんて逃げ道を見つけるとは思わなかった。二人の頭のよさに驚いた。

「着きましたよ」

 振動もなく車が停車した。窓の外を見れば、研究所の近くの路地だった。

「ここなら監視カメラがありませんから安全ですよ。……一応人がいないか確認した方がいいですが、……できそうですか?」
「うん、大丈夫。……うん、組織の人は近くにいないみたいだから大丈夫」

 幻術で周囲を確かめたあと、草壁くんにお礼を言ってから体を透過させて車から降りた。
 ひんやりとした空気に、少しだけ目が覚めた。これなら部屋までなんとか起きていられそうだ。できるだけ早足で研究所に戻り、行きのように悠長に自動ドアの前で人が通るのを待っていられないので、手っ取り早く監視カメラに幻術をかけ、普通に自動ドアを通った。監視カメラ上でドアが開いていなければ大丈夫。バレない。そのまま階段を駆け上がり、部屋に飛び込んだ。限界ギリギリでなんとか持ちこたえた。
 ベッドのバスタオルの幻術をといて、そこから先は覚えていない。
 気づけば朝になっていた。本当にギリギリだったようで、途中で寝落ちしなかったことに安堵して今日の任務の準備を始めた。

ヒトリヨガリ