26

 どこだここは。
 目を覚ますと知らない部屋だった。確か、眠る前はスコッチの車の中だったはず。着いたら起こすと言っていたけれど、起こしたが私が起きなかったのか、それともスコッチが起こさなかったのか。
 最後に一緒にいたのがスコッチだし、誘拐はないだろう。部屋も広くて綺麗だし。個人の部屋というより応接室のような場所で、寝ていた大きなソファーから起き上がるとパサリと毛布が床に落ちた。立ち上がって毛布を拾い、ソファーの上に置く。
 勝手に部屋から出ていいのかわからないけれど、ここがどこか知りたい。裏社会に染まった私には、知らない場所にいるのはとても気が張って疲れてしまう。
 薄暗い室内に光を注ぐ大きな窓に近づいて外の様子を見てみると、赤や黄に染まった木々たちが風に揺れていた。目を凝らしても、他の建物は見えない。森の中?
 自然豊かな風景に目を丸くしていると、後ろからカチャリとドアノブが回された音がした。

「起きたか」
「あれ? ライ?」
「なんだ、そんな不満そうな顔をして」
「スコッチは?」
「あいつは用事があるから帰った」

 ライが手招きするから近づいていって、そして一緒に部屋から出た。

「ここは組織の本部だ」

 廊下に出て歩きながら、さらりと爆弾を落とされた。そんな重要なことを明日の天気を言うように言われたので、一瞬流しそうになった。

「組織に正式に認められたから本部に連れてこいとジンから言われたんだが、どうやら彼は用事ができて来られなくなったらしい。お前より少し前に入った女に付きっきりだそうだ。それで俺がお前に本部を案内するように言われて来たんだ」
「ふうん」

 ジンとライならライでよかったかな。いや、そうでもないか? まあ五十歩百歩だ。
 本部にはほとんど来ることがないらしい。一応本部として形はあるけれど、個人的な活動が主なのでほとんど使わない。だけど、森の中で広大な土地があるので武器や訓練所など人目を憚る施設が充実している。と説明してから、お前が使うことはしばらくないだろうがな、とライは締めくくった。

「お前はしばらくバーボンやベルモットと共に行動すだろう」
「だよね」
「なんだ。バーボンと一緒に任務に行けて嬉しくないのか」

 バーボンのことが好きなんだろう? と聞いてくるが、私は別にバーボンのこと好きじゃないよ。もう数ヵ月一緒にいるので情はあるし、組織の中じゃベルモットとともに一番好きだけど、あくまで組織の中での話。
 とはいっても、普段の私ならバーボンと一緒に任務と聞いたら喜んでいただろう。だけど今は少し違う。

「バーボンなんだか最近怖い顔してるし、一緒にいたら空気重いから……。それならベルモットと二人で任務がいいなあ」

 私がいないときはいつも通りの表情なのに、私が近寄ると顔をしかめる。不自然なことはしていないし、正体がバレたわけではなさそうだけど、どこか上の空で腫れ物扱いをしてくるから気まずい。
 嫌われたわけでもなさそうだから、もうバーボンのことがわからなくてお手上げ状態。

「なんだそんなことか」
「そんなことじゃないよ! この前なんて、ジンと話してるときは生き生きと暴言はいてたのに、私が部屋に入った瞬間喋らなくなったんだよ!」
「あいつは心配しているだけだ」
「……しんぱい?」

 そういえば、スコッチもそんなこと言っていた気がする。あのときは途中で話が途切れたから続きが聞けなかったけれど。

「……お前が子どもだからちゃんとやっていけるか心配しているんだ」

 言葉を選ぶようにゆっくりと言う。

「それにしたって怖い顔しすぎでしょ」

 組織に馴染めるか気にするなら、距離を取るのはおかしいでしょ。もっと近づいて、いろんな技術を教えるのが普通じゃないの? とライを見つめて言うと、少し溜めてから息をはく。
 観念したような顔で口を開いた。

「あいつは……人を殺すところをお前が見てトラウマになっていないか心配しているんだ。子どもが見るものじゃないだろう」

 そんな普通の人のようなことを考えていたなんて。まるで裏社会の人の考えとは思えない。
 でもきっとライの言う通りなんだろう。考えてみればバーボンの様子がおかしくなったのは、ライとともに写真の男を暗殺したときからだ。
 だからライはバーボンの真意を隠そうとしたのか。そんな優しい感情で私に接しているなんてジンにバレたら目をつけられかねない。ジンもベルモットも殺しを悪いことだと思っていない。まさにボンゴレの敵となる裏組織。それに対してバーボンの殺しが悪いことだとする考え方は組織からすると都合が悪すぎる。ライとスコッチも、おそらくバーボン側なのだろう。同じ組織にいるのに、こんなに考え方が違うなんて不思議なものだ。そんなにボスとやらがカリスマなのか、それとも組織の目的に共感できるのか。

「だからバーボンはお前を嫌っていない。あまり傍から離れてやるな」
「うん。……だけど私は平気なのに、バーボンを悩ませるのはちょっと嫌だなあ」
「悩ませてやれ。子どもの幸せで悩むのは大人の特権だからな」
「うーん、ライがそう言うなら……」

 私は子どもじゃないけれど一応頷くと、ライが頭を荒く撫でてきた。

「なんだかライってお兄ちゃんみたいだね」
「ホー、ならお兄ちゃんとでも呼んでみるか?」
「ライお兄ちゃん?」

 呼んでみたら、ライはふっと笑った。

「これはバーボンに怒られるな」

ヒトリヨガリ