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 小さな音でジャズが流れる中、スコッチはパスタをくるくるとフォークに巻き付け口に入れた。数度咀嚼し飲み込んでから、私を見て微笑んだ。

「確かに美味しいね」
「でしょ!」

 まるで自分が作ったかのように胸を張って言えば、スコッチが「さすが美味しいものに詳しいね」と褒めてくれた。まさか褒められるとは思わなかったので目を丸くしてしまった。それを誤魔化すように目の前のりんごジュースを勢いよく飲んだ。それから「大月さん、綺麗でしょ」と笑えばスコッチもつられて笑った。
 視線を移してオープンキッチンの方を見ればキッチンの中で大月さんが忙しそうに働いている。いつもは暇そうな時間に来ているから大月さんがホールにいるけれど、今は夜。店内には夜ごはんを食べに来たお客さんで溢れている。
 ここの料理がスコッチの口に合ったことに満足したので、スコッチから目の前のドリアに意識を移した。うん、美味しい。熱い器に気をつけながら食べ進めていけばスコッチのスマホが鳴った。短い着信音で、スコッチは画面をちらりと見てすぐにポケットに戻したからたぶんメールだろう。なんでもない顔をしているのでどうでもいい連絡かと思いきや、近くにいた店員さんが遠ざかったあと「バーボンから連絡だよ」と言って口元を紙ナプキンで拭った。

「バーボン?」
「ああ。無事に男と接触して情報も得た、だってさ」
「そっか。まあバーボンが失敗するわけないよね。……情報を得たってことはもうこの任務も終わりかあ」
「残念そうだね」
「まあね。ホテルで寝ているだけだったし、ここのお店も気に入ったから研究所に帰りたくなくなっちゃう。……ベルモットに会うのは楽しみだけどさ」

 皿の端にこびりついた焦げたホワイトソースをスプーンでコツコツとこそぎ落しながら喋っていると、スコッチが「え?」と素っ頓狂な声を出した。何も変なことは言ってないのに何に反応したんだと顔をあげると、スコッチが目を瞬かせて「ベルモットは今アメリカだよ」と衝撃の事実を言い放った。
 「アメリカ! どうして!」テーブルを叩きそうになるのをなんとか堪えた。

「どうしてって言われても……、仕事があるからね」
「仕事?」
「ああ。シャロン・ヴィンヤードって知って……、いや知らないか。ハリウッド女優なんだけど、ベルモットがそのシャロンなんだ」

 周囲に聞こえないように声を潜めるスコッチに目を見開いた。シャロン・ヴィンヤード? そんな大女優知らないわけない。私の好きな洋画に出ているのを何度か観たことがある。それに来日したときなんかは、ワイドショーで取り上げられるくらい人気な女優だ。
 もちろんこの姿の私が知ってるのはおかしいから知らないフリをするけれど。シャロンの顔を思い浮かべるけれどベルモットと結びつかない。さすが変装の名人。
 スコッチが続けて「そのシャロンの仕事が入っているからしばらくはアメリカを拠点に活動するはずだよ」と言うのをりんごジュースを飲みながら聞いていた。女優の仕事なら長くなりそうだ。会えないのは寂しいけれどそれならしかたがない。しばらくはベルモットなしの任務か。
 最後の一口のドリアを口に入れて、りんごジュースで飲み込んだ。私が食べ終わったのを待ってからスコッチは「明日はきっとターゲットの始末だろうね」と肩をすくめた。任務のことはあまり詳しく聞いていない。ただ組織を裏切った男を探って始末することだけ聞いている。任務の終わりが近いってことは、ターゲットの始末も近いってことだ。

「それならスコッチは今日ホテルに泊まるの?」
「いや、帰るよ。準備をしないといけないからね」
「残念」

 笑いながら、横目でキッチンの大月さんを見れば、大月さんもちょうど私の方を見ていて目が合った。大月さんはウインクしてから「おにいさん?」と口パクするので苦笑いを浮かべて首を横に振った。
 それを見てスコッチが「どうしたんだい」と聞いてきた。

「ううん、なんでもないの」

 まさか大月さんにバーボンのことを兄だと話していたとは言えない。別に言っても問題ないだろうけどバーボンに私が「お兄ちゃん」と呼んでいたとバレるのはなんだか恥ずかしいからできるだけ内緒にしておきたい。運よくスコッチはあまり大月さんとのやり取りを深く追求してくることはなかった。
 「さあ、そろそろバーボンも帰ってくるころだろう」と言う声に頷いた。まだ早いけれど、ホテルに戻ってゆっくりしていたらじきに帰ってくるだろう。スコッチが私の子守りをするのももう終わりだ。今までも一人で留守番していたのだから必要性は感じなかったけれど、でもやっぱり一人で待ってるより楽しかった。任務が終わったら、帰る前にバーボンと三人でここに来ようと決めながら店を出た。

ヒトリヨガリ