31

 朝、バーボンに起こされて今日の予定を聞いて驚いた。スコッチとライとともにターゲットを始末すると言うのだけど、まさかそれに私も同行するとは思わなかった。さすがにまったく同行しないのはジンに怒られるのかな。
 急いで支度をして、ホテルのレストランで朝ごはんを食べてからホテルを出た。二人とは駅で待ち合わせているらしく、バーボンはしきりに腕時計を気にしながら駅に向かう。
 そんなに時間を気にしないといけない計画なのかと気になって聞いてみたら、ターゲットは今日結婚記念日でディナーに行くから、その時間までに狙撃しやすい場所を探してポジショニングしたいらしい。
 最寄りの駅に着いたので、すぐに二人に会えるのかと思いきや、バーボンは券売機で切符を買った。なんでも二人と待ち合わせしている駅はここではなく、少し離れた大きな駅らしい。そこからターゲットのいる場所まで一緒に行くのだと言う。渡された切符を受け取って、言われるがままに電車に乗ってガタゴトと揺られながら外の景色を見る。

「今日で任務終わり?」

 流れる景色からバーボンに視線を移した。

「ああそうだ」
「帰るのはいつ?」
「今日帰ると遅くなるから、今日はホテルにもう一泊して明日の朝に帰るよ」
「なら、明日の朝ごはんは大月さんのとこの喫茶店行こうよ。モーニングのサンドイッチセット食べたいなあ」
「いいよ。その噂の大月さんって人は明日の朝はお店にいるのかい?」
「うん。今日の夜は用事があって働けないから、代わりに明日の朝の当番を代わったんだってさ」

 ここ数日、何度も会話に出ていた大月さんにようやく会えるとわかりバーボンは少し嬉しそうだ。こそこそと小声で大月さんの作る料理の美味しさを語っていると、その途中でバーボンは外の景色を見て「そろそろだ」と会話を中断した。
 バーボンの言う通り、会話が途切れてすぐにアナウンスが流れた。
 電車を降りて、待ち合わせのホームに行くために一度改札を出て、すぐそばの別の改札を通り抜けようとしたときコンビニを見つけた。店頭には新発売でコンビニ限定のチョコレートが売っている。慌てて先に改札を通ったバーボンを引き留めてコンビニを指さした。

「ねえバーボン! ちょっとコンビニ寄ろうよ」

 咄嗟にそう言ってから、バーボンがすでに改札の向こうにいることを思い出した。もう入ってしまっているから改札の外にあるコンビニにはついて来られない。すぐに「あ、バーボンは先に行っててもいいよ、私だけで行ってすぐに買って追いかけるから」と声をあげた。
 待ち合わせに遅れるのを嫌がりそうなバーボンのために「先に行ってて」と言ったけれど、こんな幼い子どもを一人でコンビニに行かせるほどバーボンは冷たくなかった。バーボンは「でも」と言葉を続けるけど、どうしようもない。駅員さんに言えば出られるかもしれないけど、コンビニに行くぐらいで手間をかけさせるのも申し訳ない。
 やっぱり一人でさっさと買いに行ってくると言おうとしたとき、見慣れた長髪の男が改札から出てきた。「ライ?」と声を上げると、それにつられてバーボンも少し離れた改札の方を見た。そして私と同じように目を丸くした。ホームで待ち合わせして一緒に目的地まで行くのだから、ここで降りる必要はないはず。
 視線に気づいたライが片手を上げながら私たちの方に歩いてきた。

「悪い、少し遅れる。スコッチはすでにホームで待っているから先に行っててくれ」
「それはかまいませんが、一体どうしたんですか?」
「あー……、ホームに妹がいたんだが迷子になって帰り方もわからず、切符を買う金もないと言うので代わりに買いに来たんだ」

 ライの妹という言葉に驚いた。バーボンも初耳だったようで少し驚いているけれど、私ほど妹の存在に驚いておらずすぐに「それなら愛子がコンビニに行くのについて行ってもらってもいいですか」とライに頼んだ。

「コンビニに?」
「あ、うん。そこのコンビニの限定チョコがほしいから買いに行くところなの」
「僕はもう改札をくぐってしまいましたからね。二人が用事を済ませるまで、ここで待ってますよ」
「いや、それならバーボンには先にホームに行って二人の様子を見ていてほしい。妹がスコッチに迷惑をかけないとは思うが、初対面の二人を置いてきてしまったから気になってしまってな」
「……僕も初対面ですけど?」
「お前なら初対面とでもなんとかやるだろう?」

 何か言いたそうなバーボンだったけれど、すぐにしかたなさそうに溜息をこぼして「ちゃんと愛子を連れてきてくださいね」と一言注意してからホームの方に駆けて行った。
 そのすぐあとに、くるりとライの方を見てから「それじゃあ」と手を挙げてからコンビニに走った。ライもさっさと踵を返して切符を買いに行くのが見えた。
 店頭に並んでいるチョコを一つと、その近くにあるクッキーを一緒に店員さんに渡し、お金を払っていると予想より早くライが戻ってきた。
 ビニール袋を片手にライとともに改札を通ってホームに向かう。すると遠くにバーボン、スコッチと癖のある黒髪の女の子がいた。遠くからは男の子にしか見えないけれど、ライが妹と言っていたのだから女の子なのだろう。ライの妹はスコッチにギターを教えてもらっていたようで、ライが心配してバーボンを先に行かせなくても問題なさそうだった。
 その三人を見つけると、横を歩いていたライは私を置いて走り出した。私はわざわざ走りたくないので歩いたまま。三人の元に着いたライが妹さんにさっき買った切符を渡したのが見えた。妹さんはライと少し話してから早々に別れ、私の横を通って帰りのホームに向かった。

「無事解決したの?」

 三人に声をかけるとまっさきにバーボンが気付いて頷いた。三人のそばに行ったとき、ちょうど電車がやってきたので、一緒に乗り込んだ。

ヒトリヨガリ