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ターゲットが今日、ディナーで利用するレストランはオフィス街にあった。おしゃれな外観の高層ビルの一階にあるフレンチレストランがそうらしい。レストランの大きなガラス窓が見える、向かいのビルの屋上から双眼鏡を使ってレストランを見た。おしゃれそうだけど、あまり高級感はない。組織を裏切るような男が行くのだから、もっと豪華絢爛なレストランだと思っていたから拍子抜けだ。
双眼鏡をバーボンに返してから、ポシェットから眼鏡ケースを取り出し、その中のサングラスをかけた。まだディナーの時間には早いけれど、準備していて損はないだろう。
私のそばで同じように双眼鏡でレストランを覗いていたライが「ターゲットが窓際に座るのは確定しているのだろうな」とバーボンを見た。それは私も気になっていたので同じようにバーボンの顔を見れば、バーボンは馬鹿にするなとばかりに鼻で笑った。
「窓際のあの席だと外のイルミネーションが綺麗に見えることを伝えてますし、彼があの席を予約したのを確認してます。確実に座りますよ。愛妻家の彼がわざわざ予約をキャンセルして、イルミネーションが見えない席に座るわけありませんからね」
「愛妻家なんだ」
「ああ。何度ものろけ話を聞かされたよ」
のろけ話を思い出してバーボンは疲れたように息を吐いた。人ののろけ話ほどつまらないものはない。それも相手の女性を知らないんだから一層つまらなかっただろう。
下見を終えたライとスコッチは、地面に置いたギターケースとベースケースのファスナーを開けた。こんなところでギターを弾くのかと首を傾げていると、開いたケースの中にはライフルが入っていた。びっくりして思わず「カムフラージュか!」とポンと手を叩いた。きっと漫画なら私の頭上に電球の絵がピコンと現れていただろう。三人が微笑ましそうに私を見るので気恥ずかしくなってバーボンの袖を引いて「ターゲットの男ってどんな悪いことをしたの?」と聞いた。
「裏切るときに組織の情報を盗んだんだ。それを売って逃走資金にしようとしたんだろうね。男がどこまで情報を盗んだかわからなかったから手を出せなかったが、昨日奴のパソコンを拝借して情報のデータを調べたから、もういつ始末しても問題ないんだ」
「ふうん。どんな人なの?」
「三十代のどこにでもいそうな男だけど……。愛子は今回は千里眼を使う必要はないし、外見を気にしなくてもいいんだよ?」
男のことを詳しく聞けば、バーボンが不思議そうな顔をした。地面に寝転がりライフルを調整しているスコッチも私を見た。
何も考えていないフリをして「ちょっと気になっただけだよ」と笑えば、まだ不思議そうな表情をしたままバーボンは懐から一枚の写真を出した。その写真には人の好さそうなメガネの男が笑いながらお酒を飲んでいる姿が写っていた。
「藤原という男だ。どこにでもいるだろ? こういう男」
藤原という名前を聞いて安心した。ずっと払拭できなかった不安が一掃した。何に不安がっているのかわからないような曖昧でよくわからない不安だったけど、もう今ではどうでもよくなった。
「バンドしてるなんて思えない見た目だね」と笑えば、バーボンも笑って写真を懐に戻した。
スコッチとライがライフルの調整を終え、しばらく雑談していると日が暮れてきた。それから時間を待たずに、レストランの前の街路樹のイルミネーションに光が灯った。青い光を中心に、ところどころに赤い光で花をかたどっている。
「綺麗だね」
月並みな言葉しかでなかったけれど、三人ともそんなこと気にせずに私の言葉に頷いてくれた。
外が暗くなれば、レストラン店内の様子もよく見えるようになった。キラキラと暖かい光の溢れていて見ていて暖かそう。日が出ているときはポカポカしていたからカーディガンしか羽織ってこなかったのを後悔した。少し肌寒い。たぶん屋上ということもあるんだろう。冷たい風がカーディガンを通り抜けて肌に突き刺さる。ぶるりと身震いすれば、隣にいるバーボンが「寒いか」と私の手を取った。
「少しだけ」
「もうしばらくしたらターゲットが来るから、それまで我慢してくれ」
「うん」
バーボンの手は温かかった。
私たちを見ていたスコッチが「帰りにコンビニで温かい飲み物でも買おうか」と言うので帰りが少し楽しみになった。