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具だくさんのジャガイモがごろごろしたポテトサラダを小皿に移し、鮮やかな赤いプチトマトを彩りに添えた。鍋でグツグツ湯煎したハンバーグの袋を開けてお皿に落とし入れて、袋に残ったデミグラスソースを残らず絞る。洋食だし、主食はパンでいいかと棚から柔らかいロールパンを出してきてテーブルに置いて、あとはジンが来たらコーンスープを出せば完成だ。
テーブルの上で湯気をたてる美味しそうな料理を前にうなずいた。完璧だ。時計を見れば十八時前。
インスタントだから不味いわけがないし、味に文句を言われることはない。結局メニューはジンの好きなものなんてわからないから私の食べたいものにした。そもそも食べるかわからないから、残ったら私が明日食べることを考えて選んだ。
美味しそうな香りにお腹がぐうと空腹をしらせる。ぺったんこのお腹を撫でながら、ちらりとまな板の上に置いたままだった、中身を出し終えたハンバーグの袋を見やる。そして、そっとジンの部屋の方に目を向けて物音がしないのを確認してから、袋に指を入れてソースをすくって、それを舐めた。デミグラスソースの濃厚な味が口の中に広がる。これは味見だからと自分に言い訳してもう一口舐めようと指が袋に触れたとき、ドンッとジンの部屋のドアが開いた。ビクリと肩が動いた。
そっと振り返ってジンを見れば、ジンは私を見たあとにテーブルに並んだ二人分の料理を見て眉をしかめたが特に料理には触れずに「出るぞ」と一言放った。
その言葉に慌てて手を洗ってジンのそばに駆け寄ると、「さっさと支度をしろ」と睨まれた。ごはんなんて食べてる場合じゃないようだ。名残惜しいけれど、ホカホカの美味しそうなハンバーグにラップをふわりとかけた。
ソファーに無造作に置いたままのコートを羽織り、テーブルに投げ出されているメガネケースをポケットに突っ込んだ。これで準備万端だ。もう一度ジンのそばに駆け寄れば、今度は睨まれることはなかった。
玄関で小さな靴に足を突っ込み、そのまま大股のジンに置いていかれないように駆け足で後ろを追う。
エレベーターで一階まで降りて、いつ見ても豪華なエントランスを抜けるともう車は停まっていた。もちろん運転席にはウォッカが座っている。いつも通りの後部座席に乗り込むと、ジンが「奴の泊まってるホテルへ行け」と低い声で命令した。「へい」と一声返事してからウォッカは車を走らせはじめた。
「奴は黒だったんですかい」
進みはじめて一つ目の信号で停車したとき、ウォッカがジンに尋ねた。
「ああ。マスコミにつけられてるらしい」
「やっぱりあのSPはマスコミを避けるためだったんですね」
信号が青に変わった。二人の会話は一度途切れたが、何かに気づいた様子のウォッカが口を開いた。
「……まさか、あんなにSPがいたってことは」
「そのまさかだ。情報によるとマスコミがすでにホテルに忍び込んでいるそうだ。奴があのホテルでなにかボロを出したら、明日の朝刊に奴の名前が出るだろうな」
「そんな状況だってのに、この期に及んで薬を注文するなんてな。まったく、なんてやつだ」
「ふん」
二人の話の流れから、三谷原が始末されるのだと悟った。マスコミをどうこうするには骨が折れるし、三谷原を助ける義理はない。それに比べて三谷原はSPさえどうにかしてしまえば暗殺できてしまうのだからそっちを選ぶだろう。
三谷原が暗殺されるのか。明日のワイドショーが賑やかになるだろうな。
頭の中で、昼間のワイドショーで三谷原の突然死の報道にあれこれ好き勝手に喋るコメンテーターを思い浮かべた。まさか薬物関係で暗殺されたなんて報道しないだろう。自殺と出るか、病死と出るか気になる。ああ、三谷原は今出演しているドラマがあるから代役を立てることになるのか。裏の世界に関わってしまったばっかりに他の人にも迷惑をかけることになる。そういうことを三谷原はわかっているんだろうか。……わかってないから、手を出したんだろうけど。
数時間前に見た景色を眺めながら、そういえば学生時代の友人が三谷原のファンだったことを思い出した。明日、ニュースで三谷原の死を知って、彼女はどう思うだろう。そして三谷原の死に私が関わっていることを知ったら。全部、裏の世界と関わった三谷原が悪いのだから罪悪感なんてこれっぽっちもないけど、少しだけ昔の友人に申し訳ない気持ちになった。
前の座席に座る、綺麗な銀髪の男にもそういう気持ちが少しくらいあるのだろうか。いや、ザンザスだったら鼻で笑うだろうからジンもきっとそんな気持ちはないだろう。そもそもジンに友人なんているのだろうか。聞いてみたいけれど、そんなこと聞いた瞬間に鉛玉で脳天に風穴を開けられそうだ。ウォッカなら友人くらいいそうだし、友人の好きな人を殺すときに少しくらい心が揺れそうだ。バーボンやスコッチも。ライやベルモットは揺れはしてもそれを表に出さなさそうに思える。たぶん一番生きづらいのはライやベルモットみたいな感情を出さないタイプだろうな。
思考が脱線している間に、車は三谷原のいる豪華なホテルに到着した。