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 そこには残りのSPの姿はなく、代わりに何かを投げたフォームのままのフランと、尊大な態度で立っている骸の姿が。ナイフがポピーになった時点で、残り二人に幻術使いがいるということはわかってたけどまさか骸とフランだとは思わなかった。どうしてここに、と口を開く前に骸が「相変わらず動きも鈍く、視野も狭いですね」とバカにした声で笑った。久々の再会だっていうのになんて言いぐさだ。再会を喜ぼうと上げた腕をゆっくりと下ろした。

「なにしに来たの」
「沢田綱吉から預かったものを届けに来たんですよ。感謝しなさい」
「ミーはその付き添いでーす」
「嘘おっしゃい。任務をサボりたかっただけでしょう」

 疲れた表情の骸が肩にかかった髪を払ってから私の方に歩いてきた。私の目の前で立ち止まった骸は、腰をかがめてコートのポケットから取り出した手のひら大の紙袋で私の頬を叩いた。鬱陶しい、とその紙袋を掴めば骸はパッと手を離した。

「これは?」
「薬です。……あなた、その姿になってからおかしいと感じたことはありますか?」
「おかしい? そんなのいっぱいあるけど……」

 この半年ほどを振り返ってみるけど、なんの薬かわからない。
 首を傾げていれば、骸は呆れたようにため息をついた。

「自分の体のことくらい把握したらどうですか」
「体?」
「身長、伸びましたか?」
「そういえば……、いや、伸びてるよ?」

 そう返せば骸はため息をついた。

「師匠、もうさっさと言ったらどうですかー? この人相手だと朝までかかりますよ」
「それもそうですね。……愛子、あなたがその姿になるときに飲んだ薬はプロトタイプです。もちろん害はありませんし、飲んだ後に成長もするようになっています。ですが、あなた個人の成長に合わせてはいないので五歳の成長スピードでは不自然になるわけです」
「なるほど」
「その薬はあなたの成長を計算して調合した薬です」

 紙袋を開いてみれば、薬が一錠だけ入っていた。
 骸がフランの名前を呼ぶと、間延びした返事をしながらフランは何かを投げてきた。慌ててそれを受け取ってみればミニサイズのペットボトルに入った水だった。今すぐ飲めということか。ペットボトルのキャップをパキリと回して、一口含んだ。そのあと紙袋から出した錠剤を口に入れて、もう一度水をあおった。

「ずっと成長が緩やかだったので、不自然にならいように最初は成長速度を抑えています。そのあとは普通の子どもと同じようになりますから」
「はーい」

 ひらひらと手を振れば骸は私の手の中にあるペットボトルと紙袋を回収した。そのとき奥で何かが動く気配がした。すぐさま奥に視線をやると、倒れていたSPが起き上がろうとしていた。骸に促されるままに立ち上がると、骸は含み笑いで私を見てきた。嫌な予感に顔をしかめながら「なに?」と聞くと、「さあ、SPを起き上がれないように痛めつけてきなさい」と愉快そうに笑みを浮かべた。
 言われるままに股間を押さえたSPの元に走り、前のめりになっている男の向かって左鎖骨を殴った。SPは再度床に倒れ落ちた。右腕が不自然に投げ出されているところを見ると、骨が折れたのだろう。鎖骨の肩の近くは非力な女性でも折ることができる骨だ。この姿の私でも十分通用する。
 どうだ、とばかりに振り返り骸を見ればため息を吐かれた。納得がいかないと思っていると今まで暇そうにしていたフランが「相変わらず脳みそ足りてませんねー。そのまま小学生からやり直したらどうですか」と煽ってきた。

「なにが」
「本当にわからないんですか?」
「バカもここまでくると沢田が可哀想になってきますー」

 言い返そうとしたけれど骸に止められて言葉を飲み込んだ。

「的確に急所を狙っているのは褒めておきましょう。ですが、急所をつくのが常に正確とは限りませんよ」

 骸はこちらに歩みを進めながら言葉を続けた。

「今、あなたはボンゴレの愛子ではなく、組織に保護された非力な愛子なのです。非力な子どもが向かってくる複数の成人男性の急所を的確につくことができると思いますか?」
「……思わない」
「でしょう。それなら、あなたがやるべきことは一つ。無我夢中で攻撃したらたまたま急所に当たった、という工作じゃありませんか」

 ぐうの音も出ない正論だ。言い返せるはずがない。視界の端に移るフランが頷いているところを見るとフランもわかっていたのだろう。悔しい。さあ、殴ってきなさいと差し出された灰皿を受け取って倒れている男たちの元に向かった。
 SPの下半身や私の身長でも届くであろう範囲を殴りながら、そういえば骸とフランの姿を見られたけれど記憶を消さなくていいのかと疑問が生じた。殴る手を止めて、その疑問をぶつけてみると、あっけらかんと「ああ、この人たちから私たちは見えていませんから」と言い放った。なんということだ。じゃあさっき鎖骨を折ったSPからは私が一人で喋っているように見えていたのか。教えてくれなかった腹いせに目の前のSPの脛を蹴っておいた。
 粗方痛めつけ終えたとき、骸が「仕上げといきましょうか」と口を挟んできた。「仕上げ?」とオウム返しに首を傾げると、今までボーっとしていたフランが身軽な動きで私の前に移動してきた。そのまま回し蹴りを放った。フランの細い脚は私の横腹をとらえた。軽い私の体は簡単に吹っ飛び、大理石の床に強打した。受け身が取れなかったせいで頭をぶつけクラクラする。

「早く態勢を立て直しなさい」

 骸の言葉に体を起こそうとしたけれど、頭がクラクラするせいで平衡感覚を失ってうまく起き上がれない。そうしている間にみぞおちに蹴りが入った。その衝撃で息が止まった。

「腕と足、どっちがいいですかー」

 息はできないまま。フランの言葉にも返事ができない。

「うーん、じゃあ腕にしときますね」

 その言葉と同時に灰皿を振りかぶったフランはそれを私に向けて投げた。避ける間もなく灰皿は左腕にぶつかった。

「うっ」
「それくらいでいいでしょう」
「はーい」

 右手を胸の前に置いて息を整えてから骸を睨んだ。

「いきなり何するの! 痛いじゃない」
「あなたも傷がないとおかしいでしょう? それに訓練を怠っていたのを棚に上げてよく文句が言えたものですね。その体であることを差し引いても動きが鈍すぎです。普段幻術に頼り切っている証拠ですね。今回みたいに幻術が使えなかったらどうするつもりですか」
「ってことは、やっぱり幻術が使えないのは骸のせいだったの」
「ええ。ですがそれだって、あなたが僕の幻術を跳ね返せる力があれば問題なかったのですから。……まあ今日は訓練をしに来たのではありませんからこれ以上はよしましょう」
「えー、もう帰るんですか」
「もう用事は終わったでしょう。それに、そろそろ男たちが戻ってきますからね」

 骸は上の階に目をやった。
 ジンとウォッカの仕事が終わったのか。それなら二人がここにいてはまずい。フランはまだぐちぐちと言っていたが骸が無理やり腕をつかみ二人の体は霧に包まれた。霧が消えたころには二人の姿は消えていた。

ヒトリヨガリ