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「ねえ服部お兄ちゃん、四年前の事件のこと教えてよ。私、四年前にここで事件が起こったってことしか知らないの」
吹雪がおさまるまで食堂で時間をつぶすことにしたが、まだ外は真っ白。もうしばらくかかりそうだから事件のことを服部くんに聞いた。
遠山さんは子どもに殺人事件を聞かせることに抵抗があるのか渋っているけれど、服部くんはノリノリだ。
「ええで!」とニッカリと笑って、少し離れた場所にいる、これまた私たちと同じく吹雪が止むのを待っている箕輪一行を指差した。
「四年前もあのメンバーで映画撮ってたみたいなんやけど、スタントマンの水上っちゅーんが死んだらしい。スキーリフトに一人で乗っている間に頭を拳銃で撃ってたから自殺ってことになってるねんけど、水上の幼馴染らしい刑事は他殺やって思ってて、今水上の事件を調べるために警察辞めて探偵してるねんて。……ほら、あそこに帽子被ってコート着た男おるやろ? あれが水上の幼馴染や」
服部くんの指さした先には、無精ひげを生やした三十代くらいの男がいた。正義感の強そうな眼は探偵というより、まさに警察。
「その亡くなったスタントマンの代わりが、あそこにおる眉毛の太い男や。水上の後輩で代わりって言うても四年前もおったらしい」
「でな愛子ちゃん! 亡くなった水上さんの横に大量の雪が入ったバッグがあってん。普通バッグに雪なんか詰めへんやろ、重いし。それで『もし他殺なら雪女の仕業じゃないか』って言った箕輪さんに向かって、このアホ、『人間がやったから犯罪っちゅうんじゃ!! それに不可能なモンがあるか! ボケェ!!』って叫んでんで! めっちゃ恥ずかしかったわ」
「せやかて雪女みたいな、けったいなもんのせいで片付けられたくないやろ」
「だからって、あんな叫ばんでもええやん!」
目の前で痴話げんかが始まった。
キーキー言い合う二人をよそに、箕輪一行を見た。
箕輪はファンに囲まれて楽しそうにしているが、他の三人と元刑事だという探偵は窓のそばでしんみりとしている。
四年前とはいえ、同じ撮影チームの一人が亡くなった現場なのだから気持ちも落ち込むだろう。
彼らの雰囲気が伝染して私も少しだけ気分が沈む。
私もボンゴレに所属してから、何度も仲間の死に立ち会ってきた。それは綱吉や他の子たちも同じこと。死体も持ち帰られず、空の棺に写真だけ入れられていたこともあった。
悲しかったけれど、私には悲しみを共有する仲間がいた。
バーボンの悲しみも、私が共有してあげられたらちょっとは楽になるかもしれないけれど、それは無理だろう。バーボンが組織の人間である私に弱音を吐くはずがない。「実は私、スパイなんだ!」なんて言ったらバーボンに始末されるし。難しい問題だ。
せめてバーボンに、一般人の友達がいたら組織のことは隠しつつも弱音を吐けるかもしれないのに。
完璧主義であるだろうバーボンがそんなことしないだろうけど。
「あの時もこんな吹雪だったな……」
箕輪一行のうちの一人、眼鏡をかけた小太りの老人が外を見ながら、ひとり言のように呟いた。
服部くんに、その小太りの老人は監督だと教えてもらった。
監督の横にいた、クールビューティな女性が「え?」と監督を見る。
「水上君が自殺した四年前のあの日だよ」
監督は窓の外から視線を外して、ファンに囲まれている箕輪を見やる。
「あの日もこんな感じで撮影待ちをしている間に、箕輪君がファンに囲まれていて……。あの彼が、まさか一時間後にあんなことになるとは……」
暗い表情の監督の言葉に、探偵の男が言葉を続けた。
「そうそう、四年前のあの日もあんたらはここで映画を撮っていた。……『雪女の怪』ってホラー物を」
探偵の男は探るような目で監督を見る。
「その三年前に撮った『雪女の恋』ってラブストーリーと、今回の『雪女の計』ってミステリーで雪女三部作になるわけだが、『雪女の計』は『雪女の怪』を撮っている最中に起こった水上の事件を忠実に再現しているそうじゃないか」
それで雪女の仕業なんてことになったのか。
映画の撮影中の事件や事故は、よく幽霊の仕業だと騒ぎになる。ただの映画の宣伝の一つだと思っていたが、この映画の場合関係者も雪女の仕業と思っているのか。
「探偵役も『恋』や『怪』で主役を務めた箕輪奨兵が実名で出てるっていうし……。映画の前宣伝じゃ、雪女に魅入られた男が自殺したとなっているが、本当は犯人がいるんだろ? ミステリーなんだから」
探偵は監督に詰め寄る。
「聞かせてほしいねえ……。脚本上じゃ誰が犯人なのかを」
「そ、それは……」
たじたじの監督。
なんだか服部くんより、無精ひげの探偵の方が面白そうだ。だけど相手が大人だと私は部外者に追いやられてしまうから服部くんのそばにいた方がいいだろう。
険悪な空気の中、今回新メンバーだと服部くんが言っていたスタントマンの男が窓の外を見た。
「おっ! 吹雪収まってきたみたいっスよ!」
スタントマンの言葉にみんなもつられて窓の外を見た。
外に出られると知ったファンの女性たちは、たちまち歓声をあげる。
「じゃあ滑っているところ見せてくれませんか?」
「『雪女の恋』や『怪』の抜群のスキーテクを!!」
口々に言い寄られ、箕輪は断るものの女性たちも引かない。断るといっても口だけで、悪い気はしていないと言わんばかりの表情だから、ファンも押せば滑ってくれると思っているのだろう。
別に滑っているところを見なくても、イケメン俳優が目の前にいるだけで十分そうなのに。
煮え切らない返事をする箕輪を押し退けて、美人な女優さんが彼のファンに厳しく断ったが、箕輪自身も監督も別に滑るのは問題ないらしい。
「きっと水上先輩なら、こう言うんじゃないっスか? 『なんとかなるっしょ!』……ってね」
スタントマンの男は女優さんに向かって言うが、女優さんは余計に怒ってしまった。なんでも、亡くなった水上さんは女優さんの婚約者だったらしい。それなら婚約者の口癖を勝手に引き合いに出されたらいい気はしないだろう。
しかし結局女優さんが折れて、箕輪はファンの前で滑ることになった。
「俺らも行くで」
「証拠探しに行くん?」
「ちゃうわ。箕輪さんが滑んのを見に行くねん」
そう言うと、服部くんはさっさと歩いていってしまった。
「もう平次! 愛子ちゃん、はぐれたらあかんで?」
「はーい!」
差し出された遠山さんの手を握って、二人で服部くんを追った。