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「ええ!? 俳優の箕輪さんが自殺しはった?」
静華さんのよく通る声が雪山にこだました。
「それホンマか、平次?」
「でかい声出さんといて! まだオフレコなんやから!」
雪山から降りてきた服部くんが上で起きた事件を教えてくれた。静華さんが聞いたという銃声は本物だったらしい。
「けど、なんでそないなこと……」
「さあ……、そらまだわかってへん。それが自殺やっちゅうのも怪しいし……」
服部くんは真面目な顔をした。そして、服部くんの感じた怪しい点を話し始めた。
「四年前の事件と同じで、リフトに一人で乗った男が自分の頭撃ち抜いた拳銃握って死んどって、その傍らには子どもがやっと入れるくらいのバッグが置いてあって、中には雪がぎょーさん詰まってたんやからな」
「それ自殺とちゃうん?」
「そやからそれをオカンの撮ったビデオで確かめに来たんや! ほら、撮っとけ言うたやろ? リフトの入り口! あん中に箕輪さんの……」
「ああ、あるある! 箕輪さんがリフト乗るとこやろ?」
服部くんは静華さんからビデオを受け取ると、じっと録画された映像を見た。遠山さんが「どう? 平次、何かわかる?」と話しかけるのも無視して。
横から画面を覗き込むと、監督、箕輪さん、探偵の三人が順番に一人ずつリフトに乗っている様子が映し出されている。
箕輪さんがリフトに乗るのを見ていた服部くんに静華さんはひとり言のように「けど、そのビデオ大人気やなあ」と呟いた。
「ん?」
服部くんは顔を上げた。
「あんたの他にもいてはったんや、そのビデオ見せてくれくれって人が……」
「まさかそいつ中坊やったんと……」
やけに服部くんは「中坊」を気にする。私が彼らに話しかけたときも中坊がどうたらと言っていたし、いったい誰なんだろう。
「ええ、そうや」
静華さんが答えると、服部くんは随分と苛ただしげな顔をした。
「ねえ、その中坊って誰なの?」
服部くんに聞こうと思ったけれどイライラしていて怖いから、遠山さんの腕を掴んで聞くと、遠山さんは「うーん」と困った表情をした。
「誰って聞かれても……。なんか平次の他にも中学生の男子がこの事件のこと調べてるみたいで、平次が調べる先々で『また中学生か』って言われてて怒ってるねん。だから名前とか顔は知らんのよ」
「ふうん」
「言っとくけど、たまたまその中坊が俺より先に現場に着いてるだけで、俺が負けてるわけちゃうからな!」
なるほど、ライバルというわけか。それも同じ中学生なら対抗意識もメラメラに燃え盛るだろう。
どうせ同じ中学生探偵なんだったら、犯人を追い詰めるときに競い合ったら楽しそうだ。きっと服部くんは感情的な推理をするだろう。
ビュウッとひときわ強い風が吹いた。
ビデオカメラを静華さんに返した服部くんは、無言のままホテルの方に歩いていく。
「あっ、平次、どこ行くん」
「ホテルや」
「帰るん?」
「なんでや! 売店に行くねん」
厳しい言葉を返しながら服部くんはざくざく歩いてく。
静華さんと遠山さんは服部くんの自由な振る舞いに慣れた様子でついて行く。
歩き慣れない雪道は普段使わない筋肉を使うから、あまり距離を歩いていないのに足取りが重くなってきた。はあ、はあ、と呼吸も荒くなってくる。
そろそろ体力の限界だ。
それにバーボンが用事を済ませて帰ってきているかもしれない。あまり長時間部屋を留守にするわけにはいかない。しばらく前に、部屋の様子を調べたときはバーボンはいなかったけれど、他に幻術を継続して使っているからずっと部屋の中に分身を置いておくのは疲れるからできない。私は無尽蔵に力を使える人たちとは違う。
ホテルの玄関口で体に積もった雪を払っている三人に声をかけた。
「お母さんが心配してるかもしれないから、一回部屋に戻ってくるね」
服部くんはぱちりとまばたきをすると、「そういえば嬢ちゃんも一緒やったな」と思い出したように言った。
気を使われるのも嫌だけど、忘れられるのも嫌だわ。おかげで、いい暇つぶしができたわけだけれど。
遠山さんは私の目の前にしゃがんで、私の頭や肩にわずかに積もった雪を払ってくれた。
「お母さん、元気になってるといいね」
「うん」
「平次、売店行くんは愛子ちゃん部屋まで送ってからでもいいやろ?」
「おおええで」
「じゃあ行こか」と遠山さんが手を差し出してくる。その手を取りそうになるが、ハッと彼女たちが部屋まで来たら嘘がバレると思い出し手を引っ込める。
遠山さんは「どうしたん?」と首を傾げた。
「お兄ちゃんの推理の邪魔はできないよ。部屋はエレベーターで上に行くだけだし一人で大丈夫だよ」
「そんなん、エレベーターで上がるだけなんやったら、それこそ平次の邪魔にならんねんから一緒に行くよ。愛子ちゃんのお母さんにも挨拶したいし」
遠山さんの横にいる静香さんも「外を連れて回ってもたし、ちゃんと挨拶しとかなな」と援護する。服部くんだけがどうでもよさそうにしている。
部屋に連れて行ったって別に彼女たちを誤魔化す手段はたくさんある。
問題はただ一つ。一般人に部屋を教えたとバーボンにバレたら怒られることだ。
「お、お母さん、風邪引いて寝込んでたからパジャマのままだしお化粧もしてないから人に会いたくないよ。お母さん、人に会うときはお化粧したいって言ってたから急にみんなが来ちゃうと困っちゃう」
お母さんを心配している風にしゅんとすれば、なんとか二人は諦めてくれた。
その気持ちが変わらないうちに、さっとエレベーターに向かった。
エレベーターの行き先は最上階。チンッと軽い音が鳴り、扉が開いた。毛の長い絨毯を踏みしめながら歩く。大きなホテルではないのですぐに部屋についた。
部屋に入る前に中の様子を伺う。
まだバーボンは帰ってきていないようだ。ほっと安心して鍵を差し込んだ。