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 ホテルの外は相変わらずの吹雪だ。だけど今は一人きりで、しかも周りは真っ暗。私の姿は闇に紛れている。幻術で雪を遮ってもバレはしない。ついでに厳しい寒さも和らげておく。なんでもできるわけではないが、大抵のことはできる便利な能力だ。
 雪に足を取られないように気をつけながらリフトまで来た。ここまで、服部くんたちに追いつくことだけしか頭になかったけれど、そういえば私は一人でリフトに乗れないんだった。
 幻術で姿を変えることも、誰か一緒にいることにするのもできる。だけど万が一を考えたら、リフトに乗るくらいで人の目を欺く幻術を使うのはリスクが高すぎる。この姿の私がリフトに乗っていないのに上にいたこと、私の横に見知らぬ人がいたこと、そんなことがバーボンにバレでもしたら大変だ。

「あれ? お嬢ちゃん、お父さんかお母さんは?」

 悩んでいると、係りの男性が私に気づいて声をかけてきた。

「いないよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが上にいるから私も上に行きたいの」
「でも、お嬢ちゃん一人じゃ乗れないよ?」
「……私も上に行きたいなあ。お兄ちゃん、上で推理するって言ってたから見に行きたいのに……」
「うーん、でもなあ」
「お兄ちゃん……」

 伊達にボンゴレの潜入捜査官をしていない。嘘泣きくらいどうってことない。
 だけど私がぐずぐず泣き始めても係員は困った顔をするだけだ。小さい子どもを一人で乗せて、万が一落ちて死んでしまっては大問題。渋るのも無理ない。
 さて次の手を考えないと――そう考えていると、「先輩、どうしたんですか?」と可愛い女性の声が聞こえた。

「ああ、山下」
「あれ? 君、夕方も来ていたよね。警察が来てごたごたする前くらいに……」

 男の係員の後ろからひょっこり出てきたのは山下と呼ばれるショートカットの大学生くらいの女の子。どうやら私がここで服部くんたちを待っているときもいたみたいだ。
 男の人は手短に私のことを説明すると、「それなら」と山下さんは笑って私を見た。

「私、もうバイト上がりだし一緒に乗りましょうか?」
「いいのか?」
「はい! この子、さっきも置いてけぼりで可哀想だから」

 私を見下ろして、「お兄ちゃんに置いていかれて寂しいよね」と優しく微笑んだ。
 乗せてくれるならなんでもいい。「うん、寂しい」と同意しといて山下さんのそばへ近づく。

「じゃあチケット買おうか。あ、お金はある?」
「うん」

 背負っていた黒いウサギのリュックを下ろし、中から財布を取り出す。山下さんは私からお金を受け取ると、わざわざチケット売場まで行ってチケットを買ってきてくれた。世話焼きな人だ。

「じゃあ乗ろっか。乗ったことはある?」
「うん!」

 それならよかった、と山下さんはリフトに乗るタイミングだけを教えてくれた。
 山下さんのカウントダウンぴったりに、膝の裏に緩やかな衝撃が当たり、そのままリフトに座った。足が地面から離れどんどん地上が離れていく。

「あんまり下を見たら怖くなるよ」

 山下さんが私の腕を掴んだ。
 しかたないので大人しく流れる景色を眺める。暗いせいで見えにくいけれど、凍った木々が光に照らされてきらきらと輝いている。イルミネーションというわけではないから幻想的というほどではないけれど、これはこれできれいだ。
 だけど、そんな景色も数分見ていたら飽きる。代わり映えのない木々は見飽きてしまって、またしてもきょろきょろと辺りを観察してしまう。山下さんに気づかれなければいいのだ。
 またしばらくすると、リフトが随分と地面に接近した。これならリフトから飛び降りれそう、なんて考えていたのが山下さんにバレたのか「ここは地面に近いけど、だからって三メートルは離れているから落ちたら危ないよ」と注意された。

「他にも近づくところあるの?」
「あと一箇所あるよ。……でも、そこも下を覗き込んじゃダメだからね」
「はーい」

 地面とリフトの距離が三メートルまで縮まる場所が二箇所あるのか。そこなら飛び降りても怪我もしなさそうだ。撃ってから下に逃げる。逃走方法はこれだとしても、どうやって一人で乗っているリフトに上ったのかの問題が残っている。怪しいのは鞄だろう。鞄に忍び込んだって被害者に担がれたらバレるし、鞄には雪が詰まっていた。入るのは不可能だ。
 うーん、いろいろ考えると頭が爆発しそう。こういう頭を使う仕事は獄寺の役割だから今まで逃げてたんだよね。



 リフトが地面に最接近した瞬間にタイミングよくぴょんと降りれば、久しぶりの雪の感触。
 山下さんは無事に着地した私を見てほっと安心していた。
 ついて行こうかと聞かれたが丁重に断ってからお礼を何度も言って、ロッジを目指す。
 ――早く、早く。
 どんどん足が動く。どんどん前のめりになる。どんどん、どんどん、鼓動が速まる。こんなにわくわくするなんて、思ってもみなかった。
 雪に足を取られて体力の消耗が激しいけれど、それでも足は止まらない。
 たくさんいる警察官の横を通り抜ける。
 ロッジに到着して、一回、二回と深呼吸。引き戸を開けた。暖かい空気と、レストランの食欲をそそるカレーの香りが押し寄せてくる。
 ――さて、みんなはどこにいるだろう。
 レストラン内を見渡すと、客席の奥に階段を見つけた。

「ねえお姉さん、あっちって何があるの?」

 厨房で働くお姉さんに階段を指さして聞く。お姉さんはカウンターから身を乗り出して「上は泊まるお部屋があるのよ」と教えてくれた。そして続けて「でも、今は大人の人たちが働いているから上がっちゃだめよ」と付け加えた。
 ということは上でやっているのだろう。
 「はーい」と元気よく返事をしつつ、私は人目につかないように階段に近づく。年老いた男性の怒声が狭い階段の上から響いてきた。
 ――この声は監督だ。
 もしかして、もう推理は佳境に入っているのかな。慌てて階段を駆け上る。途中にいる警察官は慌てて私を捕まえようとするが、戦い慣れていない成人男性は隙が多くてすり抜けることなんて容易い。身を屈めて足元を走り抜けると、ちょうど服部くんがある部屋の扉を開けたところだった。

ヒトリヨガリ