05

 一日経ち、気持ちも落ち着き身体の調子もよいので昔私が生活していた部屋に戻ることにした。私が昨日過ごした部屋は狭い部屋で、趣味部屋として使っていただけで生活スペースではない。そもそも、あの部屋は生活するには不便なことが多すぎた。絵画の部屋と呼ばれたあの部屋は、狭い部屋の壁中に絵画が飾ってあり落ち着かないのだ。その絵画たちは私が飾ったものだが、何日もそこで過ごしたいとは思わない。
 朝の内に先生方に挨拶を済ませ、ホグワーツに滞在する許可をもらった。というか許可しない方がおかしい。なんたって私はホグワーツを創立した者の一人なのだから。ソウが根回ししていたのか、創設者のいた時代を生きていたと言っても特に反応はなかった。そもそもソウだって創設者を知っているし、創設者を知らなくても過去を知る者という点で言えばホグワーツにはたくさんのゴーストがいるのだからあまり珍しいものでもないようだ。創設者がいた時代を知っていても、ホグワーツは私がいない間に変わったところが多いらしく、部屋まではソウが案内してくれた。道すがらソウと昔話をしていれば、興味深そうに絵画の住人たちがちらちらと横目でこちらを窺っていた。どこから入ってきたのか、ピクシーたちが嬉しそうにソウの周りを飛んでいる。相変わらずだなと笑いながら数匹のピクシーを手の上で休ませたりした。

「学校が始まるまで一週間ある。その間どうする?」
「必要なものを買うでしょ、美味しいもの食べに行くでしょ、ホグワーツを探索したいし、ダンブルドア先生とお話ししてみたいわ。……あと、ママとパパに挨拶しに行かなきゃ」
「ああ、愛子を育ててくれた人か」
「愛子というよりベガね。心配してると思うわ。……それと、昨日言い忘れていたけど、私がベガだったときにトム・リドルと友達だったの」
「はあ? トム・リドルってヴォルデモートじゃねえか。なんでそんな!」
「だってしょうがないじゃない、記憶なかったんだから。それにトムは優しかったわ」

 何か言いたげなソウを無視して、トムとこれからも仲良くするからと告げた。今はどうかわからないけれども、少なくとも五歳のトムは歪んではいたが矯正できる範囲内だった。今日話を聞いた限り、どうやら私は五歳から昨日までこの世界に存在していなかったようだ。私がいない間も時間は進み、私はこの世界ではない時限の狭間で成長したのだろうというのが先生方の結論だ。ということでトムも同い年のままだ。ホグワーツに入学すればトムと一緒にいられるのだ。
 ソウが急に立ち止まったのに倣い、私も立ち止まるとソウは目の前の大きな絵画を指差した。

「この奥に昔生活していた場所がある」

 絵画は扉の絵で、いかにもそれっぽい。

「ゴドでしょ、この魔法かけたの」
「よくわかったな」
「絵画の部屋の魔法かけたのもゴドだもの。それにゴドがしそうなことじゃない、昔生活していた場所に鍵をかけて秘密にしておくなんて」
「それ、ゴドリックに言ったら拗ねるぞ」

 だって本当のことじゃないと肩をすくめて言ってみせた。
 ソウが一歩絵画に近づくと自然とドアノブが現れた。そのドアノブを捻れば簡単に扉が開いた。思っていたよりもあっさりと開いたが、この奥は生活スペースなのだから暗号やら条件づけやらをされると困る。毎回暗号を唱えるホグワーツ生はすごいわ。
 扉をくぐり抜けると見慣れた廊下だった。思わず駆け出してしまった。廊下を走り抜け階段を駆け上がり、二つ目の曲がり角の一番奥にそれはあった。扉を開けると懐かしい香りがした。確かに私が生活していた部屋だ。魔法がかけてあったのか、何も変わっていない。まるで昨日までここで過ごしていたような感覚がする。

「どうだ、何も変わってないだろ? 埃だって積もってないんだぜ」

 誇らしそうに言うソウに驚き、恐る恐る訊ねた。

「ここ、ソウが魔法をかけたの?」
「そうだぜ。凄いだろう、褒めてもいいぞ」

 感極まってソウに抱きついてしまった。慌てるソウが面白くては笑うと怒られた。
 こんなに綺麗だったら掃除しなくても今日はここで寝られるわ。何度もお礼を言うと、ソウは喜んで私の手を取ると探索に行こうと提案した。駆け足でたくさんの部屋を見て回った。ここでサラを冷やかしたね、ここに隠れてゴドを驚かしたことがあった、あそこでロゥと魔法の練習をしたし、ここでヘルとお菓子をつまみ食いしてゴドに怒られたね、なんて思い出話がたくさん口から溢れてきた。
 いつしか空が赤に染まり始め、夕食を食べるために大広間に戻った。くたくたに疲れた私とソウを優しく見つめる先生方に恥ずかしくなりながらもお腹いっぱいご飯を詰め込んだ。
 自室へ戻る道中、さっそく明日アシュレイ家に顔を見せに行くと言ったら、少し難しい顔をして「俺は行けない」と言った。そんな気はしていたので気にせずお土産に美味しいお菓子を持って帰ってくるわと言えば嬉しそうに笑った。ソウが付いて来ないのには深い理由はないのだろう。だけど、明日私はベガ・アシュレイとして話をしに行くので来ないと決めただけだ。危険があるわけでもないのだからソウがべったりする必要はない。私の部屋の前でソウは「リドルだけは気をつけて」とだけ言ってから自分の部屋に戻っていた。

ヒトリヨガリ