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 授業を終え、迷子防止のための見回りをしていると何かを探している様子の食満先輩、伊作先輩、七松先輩がいた。あまり見かけない組み合わせだったので不躾にもジロジロと見てしまったためか、三人と目が合った。

「おい、北野」

 鋭い眼光で睨み付けてきたのは、いつもは比較的温厚な食満先輩だった。いったいどうしたのか首を傾げていると七松先輩がいきり寄って来た。俺よりも遥かに大きい七松先輩が近づいてきたら迫力があるどころではない。恐怖だ。
 後ろに控えている伊作先輩はともかく、食満先輩と七松先輩はどうして怒っているのだろうか。……いや、原因は薄々気付いている。だけれど、そうであってほしくないと思うのだ。だって絶対に面倒くさい。

「どうしました?」
「北野、お前優子さんに何かしたか?」

 やっぱり天女か。この面子だとそうだろうと思った。

「いえ、特には。何度か話したことがあるくらいですから、何もしてないと思います。……何かしたかの何かとは具体的にはどんなことですか?」
「お前のいつもの悪戯だ」
「そんな天女さまに悪戯するなんて罰当たりなことしませんよ!」
「だが、優子さんが頻りにお前の性別を訊ねるのだ。関係ないわけがないだろう」

 そんなこと言われても、俺は確かに天女に悪戯なんてしていない。祟られたらどうするんだ。
 納得しない七松先輩の視線から逃れるように右を向くと、そこには困った表情を浮かべる伊作先輩がいた。

「北野くん、あんまり優子さんを困らしてはいけないよ。彼女はまだこちらに不慣れだからね」
「そうだぞ、北野!」
「北野、優子さんが忍術学園に慣れるまで女装をするな。もしかしたら、お前が悪戯をしているところを遠目に見ていて、それで不快に思ったのかもしれないからな」

 先輩方の言い分は一向に理解ができないが、見つからなければいいのだろう。とりあえず頷いておいて、頭の中では次はどんな悪戯をしようかと思考を巡らせた。
 満足したように踵をかえす七松先輩と食満先輩を追うように伊作先輩が早足で去っていった。
 その程度の忠告で悪戯をやめる俺ではない。今までずっと先生方や先輩から叱られてきたんだ。そんなことも忘れたのか、先輩方は。
 なんて軽く考えていた俺だったが、先輩方に喧嘩を売られた次の日、不覚にも女装して遊んでいるところを天女や六年生にバレてしまい怒られてしまった。俺の楽しみを奪うなんて、と部屋にこもっている俺のもとに滝が訪ねてきた。俺と滝は互いの部屋を行き来することが多く、滝は声をかけると俺の返事も待たずに障子を開け、俺を見て第一声に「市蔵、今日はえらく荒れているな」と言い放った。

「バレないように気をつけて悪戯してたのに、目敏い天女に見つかって六年生に怒られた」
「お前にしては珍しいな。何かあったのか?」
「油断してた、としか言いようがないな。一年は組のよい子たちと女装した姿で遊んでたんだが、天女が俺のこと呼ぶからつい返事してしまったんだ。『ええ〜天女さま、北野先輩の変装を見破れるの?』って乱太朗きり丸しんべヱが騒ぎだして、先輩方にバレた」
「へえ。天女様はお前の女装が見分けられるのか」
「恐る恐る、もしかしてっていう感じだったけどな」

 女装だけは得意な俺の女装を見破るとは、まさか天女にそんな能力があったなんて思いもよらなかった。天女は他に優れた能力があるわけでもない。町娘、いや赤子と変わらぬ力しかないのだ。あまりにもバランスが悪い。これは、変装を見破るのが得意なのか、俺の女装を見破るのが得意なのかを見定める必要があるな。

「市蔵、いる?」

 障子を開けながら問う声に苦笑が浮かぶ。

「喜八郎、返事を待たなけりゃ意味がないだろう?」

 喜八郎が聞くわけないのを承知で一応注意しておく。

「で、いったい何の用?」
「滝が部屋にいなかったから市蔵のところかと思って来ただけ」
「ほう、喜八郎がこの時間に穴を掘っていないなんて珍しいな」
「あ、わかった。立花先輩に叱られたんだろう」
「市蔵は僕をなんだと思ってるの。なんでもないよ。そんな気分だっただけ」

 むくれた様子の喜八郎に、俺と滝は顔を見合わせた。
 「いやいや、よく叱られて拗ねてるだろ」なんて軽口をたたけない雰囲気だ。それでも俺の口は冗談を吐く。

「気分なんて……、そんな気分がお前にもあったんだな」
「馬鹿か市蔵。茶化しているバヤイではないぞ。……喜八郎、何があったんだ? 何か理不尽なことでも言われたのか?」
「……別に」
「あのな、喜八郎。俺も滝も楽しそうに穴を掘ってるお前が好きなんだ。どうして言いたくないかだけでも教えてくれよ」
「……」

 立花先輩に叱られたあとはむくれながらも文句を言ってくるのに、今回は全く喋らない。

「もしかして、天女、か?」

 僅かに揺れた肩に嘆息が溢れた。
 少しの間粘ると、とうとう観念したのか重い口を開いた。

「別に、天女さまのせいってわけじゃない。僕が蛸壺を掘っているところに天女さまがやって来て眺めてたんだ。……それは別に構わなかったんだ。蛸壺掘ってると誰かがいるなんてこと忘れるから」
「それじゃあ、どうして……」
「急に先輩がたくさんやって来て『優子さんの服が汚れるだろう』って怒ったんだ。めんどくさくなって逃げて来たの」

 なんでまた天女は蛸壺を掘ってるのを眺めていたんだろうか。大方、喜八郎を見たかったからだろうけど。
 言うだけ言うとスッキリしたのか滝の傍に寄って、ごろんと寝転がった。本当に気ままなやつだ。

2012/12/25/blog掲載

ヒトリヨガリ