14

 委員会に向かう途中、とんでもないものを拾ってしまった。
 俺はその紙を拾い上げた瞬間、確信めいた予感が身体中を駆け巡り、紙に書かれている文字を目で追っていくうちに鼓動が暴れ、高まる気持ちを抑えきれなかった。そして読み終わると弾かれるように走り出した。一刻も早く、この手紙を鉢屋先輩に知らせなければ、と。

「鉢屋先輩!」

 ズバンと障子を開けると庄左ヱ門にたしなめられたが、そんなもの気にしていられない。ドシドシと忍者らしからぬ足音をたてて鉢屋先輩に詰め寄った。

「鉢屋先輩! 見てくださいよ、この、この手紙を!」

 興奮して息も絶え絶えに言い放ち、先程拾った手紙を先輩の胸に押し付けた。ぐしゃりとシワができた。
 訝しげだった鉢屋先輩もその手紙を読み始めると表情を一変させた。興奮で顔を紅潮させ、目は爛々と輝いている。俺も同じ顔をしているだろう。

「な、なななんだ、これは」
「恋文ですよ、天女さまに宛てた。たたた竹谷先輩からの」

 顔を真っ赤にさせて笑い合う俺たちに興味を示した後輩二人が竹谷先輩の恋文を読み出した。

「だだだめだって、ぷぷ、一年、生には……し、刺激が強いから」

 笑いすぎで体に力が入らず一年生二人を止めることができない。鉢屋先輩は「私の可愛い後輩が穢れる」と言いつつも笑って起き上がらない。きっと本心では竹谷先輩渾身の恋文を読ませたいのだろう。

「女性には、困っているときに手を差し伸べるくらいに留めておくようにと山田先生がおっしゃっておりましたが、このような恋文を送ってもよいのですか」

 顎に手をあて真面目な顔で思案する庄左ヱ門に俺と鉢屋先輩の腹は捩れそうにになった。
 彦四郎は手紙の内容に引いたようで、顔がひきつっている。女を虫に例えたり、途中で虫語りが始まったりと普通の恋文ではない。竹谷先輩らしい内容ではあるけれど。

「これって、もう渡したんですかね」

 彦四郎の手にある手紙に視線が集まる。

「渡してたら、て天女さまは、たた竹谷先輩と虫の探索デートでもしたのかな」
「そういえばこの間、八左ヱ門が髪のセットをタカ丸さんにお願いしに行ったぞ」
「まままさかのタカ丸に! 竹谷先輩ってどど度胸あるんですね」

 笑いで声が震える。忍術学園一のモテ男タカ丸に「優子さんと虫の探索デートするから髪をセットしてください!」なんてことを言ったのだろうか。
 そもそも竹谷先輩はデートに誘っているつもりだろうが、これは生物委員会体験だ。

「なるほど、これは悪い例なのですね」

 冷静に納得する庄左ヱ門。落ち着いていた笑いがまた噴き出した。
 結局この日は、立花先輩が通りかかり五月蝿いと言いに来るまで竹谷先輩の恋文で笑い続けた。恋は盲目というが、きっと竹谷先輩は恋をしていなくても虫観察デートなんてことをやりそうだ。女性に人気の可愛い動物を見せてやれば十分盛り上がるというのに。竹谷先輩からすると、すべての動物が可愛いのだろうけど、相手の女性の気持ちも考えないと。仕方がない、今度俺が女装して鉢屋先輩と一緒にデートのやり方を教えようか。

ヒトリヨガリ