02

「こーんにーちはー」

 間延びした声で挨拶しながら学級委員長委員会が活動する部屋に入ると、庄左ヱ門だけが几帳面に正座をして待っていた。

「こんにちは、北野先輩」
「ん、庄左ヱ門だけか?」
「はい。彦四郎は少し遅れてくるそうです。鉢屋先輩はまだいらっしゃっていません」
「……そうか。じゃあ先にお茶の用意をしようか。今日はとっておきの菓子を開けよう」

 懐から出した菓子を見せて庄左ヱ門の頭を撫でると、庄左ヱ門は照れくさそうに笑った。菓子を包から出そうとしたところ、気配もなく鉢屋先輩が部屋に入ってきた。少し不機嫌そうな顔は、庄左ヱ門が鉢屋先輩に気づく前にいつもの笑顔に変わっていた。

「あ、鉢屋先輩! こんにちは、ちょうど今北野先輩と先にお茶の準備をしようとしていたところなんですよ」
「ああ、ありがとう。少し遅れてすまない」
「いえいえ、……鉢屋先輩、疲れてます? 俺と庄左ヱ門で用意しておくので先輩は休んでいてくださいよ」

 疲れの色が浮かぶ鉢屋先輩を無理やり座らせて、俺と庄左ヱ門でお茶の準備を進めた。
 ちらりと鉢屋先輩を横目で見やり、昨日滝に言われた言葉を思い出した。委員会に来てくださっているということは、鉢屋先輩は天女に惚れていないと見ていいだろう。みんなの話を聞いた限りでは天女に惚れたら委員会に来ないそうだし。いやー、さすがは鉢屋先輩だ。

「そういえば鉢屋先輩、女の子の好みそうな甘味屋は知りませんか?」
「……甘味屋?」
「はい。できれば女の子がたくさん集まっているときろがいいんですけど……」
「そうだなあ……。このあたりだと裏裏山の麓の町にある天乱子堂というところが有名だよ。可愛いねりきりがたくさんあるらしい」
「てんらんしどう……。わかりました! 裏裏山の麓ですね。今度、四年のやつらと行ってみます」

 別に女の子を物色しに行くわけではない。他の四年生は異性よりも無機物に首ったけだし、私はというと――。

「北野先輩、女装の練習ですか?」

 そう。俺は女装が趣味だ。可憐な乙女と仲良くなるより自分がそうなりたい。なので、甘味処には女の子の研究にために行く。
 ある意味、女の子を物色しに行くと言っても間違いではないかもしれないな。

「練習というよりも観察だな。最近の女の子の好みの服や傾向を観察したいんだ」
「へえ、熱心ですね!」
「いやいや、鉢屋先輩には劣るよ。なんたって鉢屋先輩は変装名人だからな!」
「おいおい、おだてても何も出ないぞ」

 そう言いながら鉢屋先輩は棚から煎餅を出してくれた。嬉しそうな鉢屋先輩を見て庄左ヱ門と笑っていると、遠くから軽い足音が聞こえた。

「失礼します。遅れてすみません、一年い組の今福彦四郎です」
「彦四郎、こんにちは」
「こんにちは北野先輩」
「さあ、彦四郎も揃ったことだし茶会を始めるか」
「はーい鉢屋先輩」

 定位置に彦四郎が座ると、一人分空いた位置が気になった。庄左ヱ門がみんなにお茶を渡すと鉢屋先輩が彦四郎を見た。

「ところで彦四郎、随分遅かったが何かあったのか?」
「実は土井先生には組の勉強を庄左ヱ門と一緒に教えてくれないかと頼まれまして……」
「へー。タカ丸が土井先生は最近忙しそうだと言っていたな」
「そういえば、土井先生の今日のツッコミはいつもよりキレが悪かった気がします。乱太郎、きり丸、しんべヱのスピードについていけないところがありました」
「それは大変だな」
「鉢屋先輩もそう思います? 土井先生がツッコミをしなくなったら大変になりますよね」

 土井先生が忙しいのは十中八九、火薬委員会の手伝いが大変だからだろう。

「あまり土井先生の胃が痛くならなければいいんですけどね」

 そう言うと鉢屋先輩は少し思いつめた顔をしてしまった。まったく、先輩がそんな顔する必要ないのに。俺にとっては対岸の火事。そう思って、不自然に空いた鉢屋先輩の横は見ないふりした。

2012/08/27/blog掲載
20140211/remake

ヒトリヨガリ