03
「はじめまして、天女さま」
「え? ああ、はじめまして! 私、南田優子っていうの。あなたは?」
「僕は四年は組の北野市蔵と申します」
廊下で天女とばったりしてしまった。しかたないから自己紹介をしたが、驚くほどに距離も近い。態度も初対面とは思えない。だけどそれは悪いことを知らない無垢なようにも見える。
この人がみんなを悲しませているのか。天女をじっと見てみる。確かに顔立ちは悪くない。サラサラの髪に、パッチリとした小動物を思わす目、小さな鼻にぷっくりとした唇。抱き締めたくなるような体型。性格も少し馴れ馴れしいが社交的とも言えるだろう。
噂の先輩方のように委員会を休んでまで愛せないが、一緒にいると好きになってしまうという気持ちはわからなくもない。
しかし俺の感想は、「悪くない」やら「好きになるのもしかたがない」であった。
天女の方も俺の顔を見つめている。そして、おずおずと少し話す時間があるか聞いてきた。俺も話題の天女について気になっていたので少し話すことにした。
「四年生っていうと、この前まで下級生だったわけでしょ? 上級生になったプレッシャーとか大きいの?」
初対面の人にぶつける質問ではないと思うが、天女ということもあり俺たち人間と少しずれているのかもしれない。不躾な質問ではあるが、特に答えられない質問でもないので、プレッシャーか、と四年になってからの心境を振り返ってみた。
「そうですねぇ、……確かにプレッシャーは大きかったですけど、一番感じていたのは三年生の頃です。上級生に仲間入りする心構えが必要ですからね。どういう忍者を目指せばいいんだろうとか、僕も先輩方のようになれるだろうかとか、いろいろ考えましたよ。でも四年に進級してみると案外アッサリ受け入れられました。なってしまったものはしかたがないという気持ちです。頑張るしかありませんから」
「そういうものなんだー」
「はい。四年生は上級生と言ってもまだまだ簡単なことしか学びませんし。五年生になってからプレッシャーを感じたり、ついて行けなくなったりする人が増えるそうです」
「そっか、ありがとう!」
何が知りたかったのかわからないが、とても機嫌がいいみたいなので気にしない。嫌な予感もするが気にしない。
「あ、市蔵くん。は組ってことはタカ丸くんと同じクラスってことだよね?」
「はい、そうですよ。タカ丸がどうしました?」
「タカ丸くんに今度髪を結ってもらおうと思ってるんだけど、いつが暇かなって」
「暇、ですか。たぶんタカ丸は暇なんてないと思いますけど……」
「えー! そうなの?」
「はい。タカ丸は転入生ですから、四年の授業だけではなく、一年の授業にも出席していて忙しいんですよ」
納得してもらおうと説明すると、ぶつぶつ何か言い出した。なにこれこわい!
やっぱりスタッフの陰謀かとかなんとか聞こえるが何のことやらさっぱりだ。とりあえず怒ってるわけでもないようなのでそのまま話を続けることにした。
「四年生は上級生の仲間入りして、下級生に良いところを見せてやりたいっていう気持ちが大きいので鍛練に力を入れているやつが多いので、あまり練習しているところに近寄らない方がいいですよ。ピリピリしてますから」
「そうなんだ! ありがとうね!」
いえいえ、あいつらの邪魔なんてされたらたまったもんじゃないんです、なんて口が裂けても言えない。
じゃあ、僕は用事がありますからと言って天女から離れた。
20140617/remake