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 立花先輩に作法室へ来るよう言伝てを預かり、慌てて作法室に向かうと、なぜか鉢屋先輩がいらっしゃった。そして呼び出した当人はいない。鉢屋先輩の隣に腰を下ろすと先輩を伺い見た。

「鉢屋先輩も立花先輩に呼ばれたんですか?」
「ああ、しかし立花先輩はまだいらっしゃっていないようだ。少し遅れるとは聴いていたが、……余所の委員会の部屋は居心地が悪いな」

 気まずそうな顔をしている鉢屋先輩だが、先輩の前には茶と茶菓子があり、しっかり寛いでいるようだ。流石は鉢屋先輩。
 俺も滅多に入らない作法室なので掛け軸を捲ったりいろいろと見て回っていると、「何をしているんだ」と呆れた立花先輩の声が聞こえた。

「あ、立花先輩。こんばんは、遅かったですね」
「六年生にもなるといろいろと忙しくてな。待たせた詫びに水羊羹を持ってきたが……どうやら不要だったようだな」
「なっ、先輩! 茶菓子食べてたの鉢屋先輩だけですから! 俺は先輩のこと待ってましたよ」
「冗談だ」

 小さく笑みを浮かべ、包みを俺に渡すと立花先輩はぽつんと空いていた上座に座った。

「二人を呼んだのは他でもない、天女様のことで話がある。……なに、悪い話でも暗い話でもない」
「して、それはどのような話ですか」
「そう慌てるな鉢屋。……ところでお前たち、何か聞こえないか?」

 にやりと口元を歪める立花先輩は悪戯を仕掛けた鉢屋先輩のようで、すぐに何か面白いことが起こることを予想し鉢屋先輩と耳を澄ませた。
 何も聞こえないまま数秒が過ぎ、一体何が聞こえるのかと立花先輩に訊ねようと口を開いた瞬間、部屋の外から誰かの話し声が聞こえた。ぼそぼそと何を言っているかわからなかった話し声は次第に明瞭になり、潮江先輩と食満先輩、天女がいるのだとわかった。

「これは一体……?」
「まあ待て、もう少し静かにしておればすぐにわかる」

 言われた通りに口を閉じると潮江先輩と食満先輩が言い争いを始めた。

「おい文次郎、お前より俺の方が優子さんのことが好きだ!」
「バカだろ留三郎、お前がいくら優子さんを好きでもお前は優子さんを幸せにできねえだろ」
「もう、文次郎! 言い過ぎよ留三郎はバカなんかじゃないわ」
「ゆ、優子さん……。本当に優子さんはお優しいですね。そんな優しさを私は守りたいのです」
「だからお前には優子さんは守れないっつってるだろう。てめえみたいな腰抜けとは違って俺はギンギンに修行をしているからな! 優子さん、あなたを守るのは私の役目です。いつでも優子さんに頼りにされるのを待っていますから」
「もう……。二人ともかっこいいし強いのは知っているから、早く食堂行こ? お手伝いに遅れちゃうじゃない」

 少しずつ声が小さくなっていき、完全に聞こえなくなってから立花先輩が口を開いた。

「鉢屋、どう思った?」
「とても愉快です」
「そうだ。あやつらの会話はとても愉快で滑稽だ。……これを楽しまないでどうする」
「立花先輩のおっしゃる通りですね。私の同級生たちも面白くて面白くて仕方ないんですよ」
「だろう? そこで、今度あやつらの面白い話を酒の肴に飲まないか? そういう場を何度か設けたいとも思っている」
「いいですね! あいつらの話でしたらたくさんありますよ」
「俺も提供できる話ならあります。是非参加させてください!」

 こんな面白いことを逃すわけにはいかないと鉢屋先輩と身を乗り出して立花先輩に詰め寄ると、先輩は満足そうに頷いた。

「うむ、では早速だが明後日にここへ来てくれ」

 にこりと笑う立花先輩を残し、鉢屋先輩と部屋を去った。
 ノリノリで乗った俺が言える立場ではないが、恋する友人を嘲笑できる先輩方はいい神経をしている。

ヒトリヨガリ