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 天女さまが消えて、天女さまに惚れていた先輩方は見るからに元気を無くした。しかし、興味や好奇心から近づいていた人が多かったようで、そこまで忍術学園全体に影響を与えてはいるわけではない。
 そして時間が経つにつれ、少しずつ先輩方も調子を取り戻し始めた。しかし平穏など存在しない。

「そんな! 優子さんが天に帰ったなんて……。俺、俺どうやって生きていけばいいかわからねえ」
「やめろ三郎!」
「優子さん……。あんなに美しい女性を今まで見たことがない……ああ、もう一度だけでも会えないだろうか。そうしたら二度と優子さんを離したりはしないのに」
「だからやめろって三郎! 俺が悪かったから、だからもうやめてください。まじで」

 そう、忍術学園に安寧という言葉は似合わない。今の忍術学園は今までにないほど騒がしかった。
 その原因は俺と鉢屋先輩なわけだけど。
 俺が天女に化け、鉢屋先輩が先輩方に化ける。そして俺たちは在りし日の天女と先輩方の愛の物語の演じるという遊びをしている。観客は寒い愛を囁いていた先輩方。普段は言わないような鳥肌が立つ台詞を言っていたことは消し去りたい記憶なようで、俺たちが演技を始めると、みな顔を真っ赤にさせて騒ぎ立てた。

「あれ、伊作先輩! 食満先輩はどこへ行きましたか?」
「留三郎なら用具倉庫の裏にいるよ。あそこが一番優子さんと一緒にいたところだからね」
「……やっぱりまだ引きずってますか。竹谷先輩なんてもう好きな人できたっていうのに」
「留三郎は一度好いた人を忘れられないからね。優子さんのことも早く良い経験だったと受け入れられるときが来ればいいのだけど」
「まあ一緒にいた時間が長いとなかなか受け入れられませんよね。竹谷先輩は、ああは言っても優子さん以外の女と会っていたし、久々知先輩は豆腐の方が好きだし、尾浜先輩は多少の興味で近づいただけ、不破先輩は鉢屋先輩が優子さんに近づけないようにしていたし。やっぱり六年生の方がまだ引きずってますね」

 なにも竹谷先輩に限ったわけではないのだ。あんなに天女に執着していても、帰ったらもう町に出掛けて女遊びしている先輩方がたくさんいる。好色漢は問題だけど、多少軽いくらいの方がいい。

「留三郎の他にも、文次郎と長次がね。小平太は切り替えが早いからもう今は体育委員会で忙しいみたい」
「中在家先輩もですか?」
「長次も仲良かったみたい。好いていたかまではわからないけど、仲良かった人が急にいなくなったら……寂しいよね」

 そういえば天女は勤勉な方で、よく図書室から本を借りていた。ほとんどは軍記もので歴史に興味があったのだと思い出した。

「そういう僕も寂しいんだけどね」
「伊作先輩もよく優子さんと一緒にいましたよね」
「うん、彼女よく怪我をするから気になって目をかけていたら……情が移っていたみたい」

 遠くを見つめる伊作先輩が元気がないように見えたので、ここは一つ、いつもお世話になっている伊作先輩へのお礼だと気合いを入れて変装した。

「市蔵くん!?」
「どうです? 似てますよね」
「似ているけど……どうして優子さんに……」
「いつものごとく、ショボくれている先輩をからかってきます!」

 満面の笑みを浮かべ、天女さまはしないような全力疾走で用具倉庫を目指した。置いてきた伊作先輩の、いつもは優子さんの格好で絡まないくせにという言葉は無視して。
 良くも悪くも騒がしい学園であるべきなんだ。元気がないなら俺がふざけて嫌なこと忘れさせてやる。
 伊作先輩に別れを告げて、用具倉庫へ走った。忍術学園に暗い顔は似合わない。

ヒトリヨガリ