01

「はじめまして! 私、小田真希といいます。あなたの名前も教えてほしいな」

 廊下でばったり会ったのは見知らぬ女。きゃぴきゃぴ可愛らしく名前を言って体を揺らしている。まあまあ好みの顔だが……六十五点といったところか。少し手直しすれば八十点手前までは行くだろう。なんて失礼極まりない見た目を評価を脳内で繰り広げていると、無言の俺に小田さんが首をかしげた。

「ああ、すみません。俺は四年は組の北野市蔵と申します。失礼ですが、小田さんはどういったご用件で忍術学園に?」

 言いながら寂しい自己紹介だと思った。俺も滝や三木のように何か名乗り口上を考えようか。
 やあやあ、我こそは忍術学園いち女装の似合う北野市蔵である。なんて、俺が言っているところを想像してみるとちょっとおかしかった。
 そんなことを考えていると、また小田さんが俺を訝しげに見る。

「知らない? 私、昨日から忍術学園で働いているの。この間、気づいたらここにいて行くところがないから、ここにいていいって許可をいただいたの」

 訝しげな表情は、俺が彼女のことを知らないからか。
 それにしても気づいたら忍術学園にいたって、優子さんを思い出す。嫌な予感がする。

「……そうでしたか。私たち四年生はそのようなことを先生から知らされていないですね」

 そう言うと小田さんは少し考え込むように黙りこんだ。その様子も優子さんの姿と重なる。もしかして、小田さんも天女なのだろうか。
 警戒感がじりじりと背後に這い寄る。
 突然、小田さんはパッと顔を明るくさせると俺の手を取ってにっこりと笑った。

「私、忍者ってあまり知らないの。今度いろいろ話聞いてもいい?」

 面倒くさい。なんてさすがに言えないから笑顔で「時間があったら、いつでもお相手いたしますよ」と言っておいた。今のところ彼女の正体がわからない。彼女も天女だとしたら失礼は働けない。人間だとわかったら、そのときは適当に忙しいとでも言って逃げよう。
 俺が快諾すると、小田さんは嬉しそうに笑った。なんとなく、にたりとした笑い方のように思った。
 また面白いことが起きそうだな。俺が巻き込まれなければそれでいいや。
 今日のところは挨拶だけで小田さんは去っていった。



 後ろ姿を見送って忍たま長屋に向かう道中、今度はタカ丸に捕まった。
 勉強を教えてほしいと言うタカ丸の後ろをついて、タカ丸の部屋に入った。机に向かい、にんたまの友とにらめっこするタカ丸を尻目に俺は寝転びながら大福を貪っていた。ひとまずタカ丸に一人で勉強してもらっている。わからないところでつまずいたら教えるつもりだ。
 俺はタカ丸の背中をぼんやり見つめながら、さっきのことを思いだしタカ丸に言葉を投げ掛けた。

「小田真希って知ってる?」

 筆を置いて振り返ったタカ丸はきょとんと目を丸くして「知らない」と答えた。

「だよなー。俺もさっき知った……というか会ったんだけど、忍術学園でしばらく世話になるらしい。私のこと知らないの? みたいな態度だったから俺がおかしいのかと思ったんだよなー」
「うーん、……やっぱり知らないや。っていうか市蔵くんが知らないなら僕も知らないよ」
「それもそうか。とりあえず明日の委員会で鉢屋先輩と尾浜先輩に聞いてみるわ」

 畳に仰向けに寝転がると、タカ丸も便乗して寝転がった。

「勉強もういいのか?」
「ふふ、明日でもいいかなって思っちゃった」
「明日でもいいかなって……明日も俺が付き合わされるんだろ?」
「期待してまーす、市蔵先生!」
「しかたがないな。委員会のお菓子、余ったら持ってきてやるよ」

 嬉しそうに笑うバカ面を軽く叩き、二人で図書館から借りてきていた絵巻物を読んで時間を潰した。

ヒトリヨガリ