02

「尾浜先輩、鉢屋先輩。一年生が来る前に聞きたいことがあるんですけど……」

 緩慢な空気の流れる委員会前。煎餅をバリバリと貪る先輩方に声をかけると、二人は目配せをし合って頷いた。

「小田真希さんのこと、だろ? 残念ながら俺と三郎もあまり知らないよ」

 調子が抜けた。小田さんの様子だと、先輩方なら知っていると思ったんだが。それなら一層どうして小田さんは知っていて当然という態度だったのか謎だ。

「私たち五年と六年の先輩方が調査したから安全であるってことはわかってるけどな」
「調査ですか……」
「ああ。優子さんのときのようになる生徒がいなかったんで学園長先生が滞在の許可を出したのさ。私としては、優子さんのときより嫌な予感がするからあまり乗り気ではないんだがな」

 むっと唇をつき出す鉢屋先輩の頬を掴んだ尾浜先輩はそのままこねるように鉢屋先輩の頬を回した。

「俺は優子さんより真希さんの方が好きだよ? なんだか面白そうな雰囲気だからね!」
「まあ面白そうな雰囲気なのは同意できるな」

 そうは言っても全然面白そうではない鉢屋先輩がおかしくて笑っていると、何を笑っているんだと睨まれた。やっぱり、お二人も俺と同じような感想を抱いたようで安心した。

「あ、それで先輩、小田さんは天女なんですか?」
「まあそうだろうな。本人もそのようなことを仄めかしていたから六年生五年生は天女であると思っている」
「ただ、優子さんとは違ってあまり特定の人と仲良くしてないからわからないんだ。……ああ、でもろ組の佐々木は小田真希さんと仲良かったんじゃない? 三郎、何か知らない?」
「あー……、仲がいいというほどでもないが、たしかに小田真希さんと話したと言っていたな」

 歯切れの悪い言い方をする。

「でも、佐々木先輩におかしいところはないんですよね?」
「ああ。天女に興味があるだけらしい。優子さんとはあまり親しくなれなかったそうだから小田真希さんに天女様の話を聞きたいってさ」

 天女の話っていったって、優子さんはあまりたいしたこと言ってなかったから期待するだけ無駄な気がする。
 これから、どうなることやらとため息を吐こうとしたとき、障子が開き庄左ヱ門と彦四郎が入ってきた。俺たちは自然と真希さんの話は止め、いつも通りのんびりとした委員会活動が始まった。今日のおやつは、ぜんざいだ。


 何事もなく委員会は終わり、今日も勉強を教えるためにタカ丸の部屋に向かっていると、後ろから駆け足で誰かが近づいてきた。下級生だったら注意しないとな、なんて思いながら振り返ると、足音の主はは笑顔で手を振りながら駆けてくる小田さんだった。

「北野くん! 昨日振りだね」
「ああ、小田さん。こんばんは」
「ねえ北野くん、小松田くん知らない? ずっと探してるんだけど見つからないの!」
「小松田さんですか……見てないですね」

 今日一日を振り返るが小松田さんには会っていない。そう告げると小田真希さんは「そっか」と落胆した。しかし、もう時間だそうで事務室に戻るらしい。四年長屋と事務室は方向が違うので、このまま別れるかと思ったがどうやら俺と喋るために少し四年長屋の方までついてくるそうだ。別にかまわないが、昨日会ったばかりだというのに何を話したらいいのだろうか。
 俺にしては珍しく心配したが、予想外に会話が途切れるということはなかった。俺が口を閉じれば小田さんが何か話し、小田さんが口を閉じれば俺が喋るというようにうまいこと会話が成立した。

「ほんと食堂のおばちゃんの料理が美味しくてびっくりしたの! 今まで食べてきた中で、一番美味しかった!」
「そうですよね! 俺も一番初めに忍術学園に来てよかったって思ったのは、食堂のご飯を食べたときですよ。今まで食べてきたお米がおばちゃんの手にかかれば最上級のお米に変わりますからね」
「私が前にいたとこって、あんまりご飯が美味しくなかったのよ。だからここの白米を食べただけでも、もう涙が出そうになるくらい感動したわ」

 言葉がつまった。ご飯が美味しくなかったってどういうことだろう。あまりいい土地ではなく、稲作が盛んではなかったのか。それは可哀想だ。俺は初めて小田真希さんのことをきちんと見た。
 そう言われてみると、小田真希さんは少し栄養が行き届いてないような気がする。髪の毛は少し茶色がかっていて栄養失調の象徴だ。きっと彼女は痩せた土地から来たのだろう。……天女というものはとても裕福で何の不満もないような世界で生きてきた方だと思っていたが、どうやら勘違いのようだ。
 小田さんと少しの時間だけだが話してみると、今まで抱いていた感情が少しばかり流された気がした。
 先輩方も悪い人ではないと言うし、あのころの優子さんくらい仲良くなってみてもいいのかもしれないな。

ヒトリヨガリ