03

 授業が終わって今日は何をして過ごそうかと空を見上げていると、怒った顔の滝がずんずんと近寄ってきた。
「おー滝、そんな顔してるとイケメンが台無しだぞ」
「ふざけたこと言っているバヤイではない、市蔵。喜八郎を見なかったか?」
「いや、見てないがどうしたんだ?」
「二人組でやる課題があるのに消えてしまったんだ! どうせどこかで穴を掘ってるに違いないが……。ああまったく!」

 怒りながら去っていった。探しに行くのだろうけど、忍術学園も広いし裏山まで行ってたら一人で探すなんて困難だ。
 しかたない。俺は滝とは逆の方に足を向けた。
 天気もいいことだし、散歩しながら喜八郎を探そう。
 そうして雲の流れを眺めながら、のんびりと歩いていると遠くからザク……ザク……と土を掘る音がする。このリズムだと七松先輩ではないな。先輩ならザクザクザクザクと高速で音が聞こえる。
 音をたどって裏庭に近寄ると音はしなくなった。周囲を見渡しながら探すと地面に寝転がっている喜八郎を見つけた。もちろん喜八郎の近くには無数の蛸壺が掘ってあるのだが、喜八郎はその余った土でできた小山の影に隠れていたのだ。

「喜八郎、こんなところで何やってんだ」
「疲れたから休憩」
「なるほど。喜八郎でもこれだけ掘れば休憩もするんだな」
「今日は別に急いでないからね。……ねえ市蔵、あの人誰?」

 喜八郎が指差した先には小田真希さんがいた。

「あー……、彼女は小田真希さんといって、天女さま、らしい。というか先輩方は天女さまだと思っているらしい」
「へー、天女」

 眠そうな目でぼうっと小田真希さんを見つめる喜八郎が何を考えているかはわからない。俺も喜八郎に倣って小田真希さんを見るが、彼女は五年生六人ほどと喋っているだけだ。何も思うところはない。喜八郎もただ、なんとなく見ているだけなのだろう。
 喜八郎に滝のことを言う直前に、小田さんのそばに一人、また生徒が増えた。くりっとした目の、薄い髪色をした背の低い五年生。

「あ、佐々木先輩だ」
「佐々木先輩?」
「ほら、あの髪の短い……今小田真希さんに話しかけた先輩。あの先輩、小田真希さんと仲がいいらしい。鉢屋先輩が言ってた」
「ふーん」

 興味なさそな喜八郎に笑みが溢れる。本当に喜八郎は素直だ。小田真希さんの近くには喜八郎の知る先輩はいないのだろう。喜八郎は俺と違い、交遊関係がものすごく狭い。学年問わずいたずらを仕掛ける俺とは大違いだ。しかし、交遊関係の広い俺でさえ顔見知り程度の先輩方なのだ。穴掘りしか興味ない喜八郎からすると見たこともない、というカテゴリーなのかもしれない。

「天女さまって言っても優子さんみたいに先輩方は惚れないらしいし、ちょっと喋ったけど普通の女だったよ。まあ、みんなと仲良くしたそうだったから喜八郎にも話しかけるかもしれないけど悪い人じゃないから」
「……僕は、優子さんよりも悪い感じがする」
「そっかー、喜八郎が言うならそうかもな」
「でも感じがするだけかもね」
「いや、喜八郎って動物的な勘が優れてるから、ちょっと気にしてみるよ」

 俺は喜八郎のこと信じてるよと言ってみると喜八郎は照れたように穴掘りを再開させた。
 おっと、俺は滝のことを伝えに来たんだった。
 忘れかけていた使命を果たすが、喜八郎は「でも僕が滝を探しに要ったら入れ違いになるかもしれないでしょ」と手を止めない。たしかに喜八郎の言う通りだ。

「ほどほどにしとかないと滝に怒られるぞー」
「今さらだよ」
「それもそうだな」

 帰る気のない喜八郎に何を言っても無駄だ。俺は近くの木の根元に寝転がった。あくびを一つして喜八郎の穴堀の音を遠くに感じながら眠りに入った。

ヒトリヨガリ