05
たまには実技の復習をしようとタカ丸を連れて校庭に出た。手裏剣の投げるフォームを確認したり、隠れる忍術の練習をしていると、近くの草がカサカサと揺れて三年生が顔を出した。
「おー、孫兵と藤内じゃん。こんなところで何やってるんだ?」
「北野市蔵先輩と斎藤タカ丸先輩、こんにちは。孫兵がジュンコを探すのを手伝っているんです」
「最近落ち着かないようで、いつもにも増して散歩に行くようになったんですよ」
鬱蒼とした空気を醸し出す孫兵に少しだけだが同情した。飼い主の心、ペット知らずだな。尤も、ジュンコのことをペットと呼ぶと孫兵に怒られそうだが。
二人の様子はさながら一年ろ組のように暗い顔をしている。どれだけの時間、探していたのだろう。
「俺も一緒に探すよ。なあタカ丸」
「うん、もちろんだよ」
「え、いいんですか?」
孫兵が目を輝かせた。その横で、藤内は「でも、お忙しいのでは」と眉を八の字に下げている。
そんなに困らなくてもいいと思うが、だが俺たちは今鍛練をしているし後輩の立場だと気を揉むのだろう。よくできた後輩だ。
「市蔵は僕の練習に付き合ってくれてるだけだし、僕も火薬委員以外の子たちとも仲良くしたいから、いいきっかけだよ」
なおも申し訳なさそうにする二人の頭を撫でて、「さぁ、早く見つけてしまおう」と声をかけた。
別々に探す方が効率がいいが、タカ丸もああ言うし、のんびり一緒に探すとするか。
四人でかたまって「ジュンコー」「どこだー」と声をかけながら歩き回る。果たしてジュンコは俺たちの言葉を識別できているのだろうか。わざわざ声を出しながら探す意味はあるのだろうか。
しばらく探しても、なかなか見つからない。ぐずぐず泣き始めた孫兵の頭を撫でながら「やっぱり二手にわかれるか」と提案した。三人とも納得してくれたので、三年生と俺たちは逆の方に足を進める。
木を揺すり、草を叩きながら歩いていると、タカ丸が俺の肩を叩いた。
「あれって、竹谷先輩と小田さんじゃない?」
タカ丸が指差す先を見ると、確かに二人がいた。よく見るとその隣には真ん丸の目をした例の佐々木先輩もいる。
「何しているんだろうね」
「さあ、でも鉢屋先輩が、最近小田さんが社交的になってきたって言ってたな。鉢屋先輩も尾浜先輩も急に話しかけられるようになったってさ」
優子さんと仲がよかった竹谷先輩も、最近では小田さんと喋るようになったのか。
「ふうん、。でもさ、あれって色じゃない? あれ? 違うかな?」
うんうん考えながら言うタカ丸の頭を撫でた。
「そうだな、色だ。そんで竹谷先輩はすっかり鼻の下伸ばしてる」
タカ丸と顔を見合わせてため息を吐いた。あの人のことだから色に引っ掛かってはいないだろうけど、ほんと節操がないな。一昨日、鉢屋先輩と町へ出掛けたばかりだというのに。一度、潮江先輩に矯正してもらったらどうだろうか。
「あの佐々木って人は小田さんの色にかかっていると思う?」
「いや、天女という存在に興味を持ち、近づいているだけだろう。立花先輩に小田真希さんについて伺ったら、今のところ小田真希さんに惚れている生徒はいないとおっしゃっていたからな」
小田さんに危険性はないと判断されたので、小田さんが生徒に色をかけて落としたって、逆に生徒が小田さんの色にかかったって何の問題もない。ややこしいことが起きなければ、なんでもありなのが忍術学園だ。だが、かかったのが竹谷先輩だというのなら話は別だ。存分に楽しまなくては。
しかしその前に、この状況を利用しなくてはならない。
「タカ丸いいか。今、小田真希さんは竹谷先輩と佐々木先輩が色にかかっていると思い込んでいる。先輩方のあの表情をよく覚えておけよ。色にかかっているふりは今後重要になってくるぞ」
惚れてはいないが、甘える小田さんにいい気分でデレデレしている佐々木先輩。竹谷先輩は、案外わかりにくい。俺はすぐに鼻の下を伸ばしているな、なんてわかったけれど取り繕うのが上手だから、どちらかといえば佐々木先輩の方が真似しやすい。
そうアドバイスしても、タカ丸は難しい顔をする。
「うーん、色にかかっているふりって難しそうだね。僕、すぐにばれそう」
「これは経験が重要だからな。町で好みじゃない女を落としていれば慣れるだろ」
「えー、好みじゃない女を口説きたくないよ。そんなに女の子に不足していないし!」
まあ、タカ丸だったら任務中に平気で髪質チェックとかしそうだな。なんて冗談で言うと、えへへと笑うのでタカ丸の頭を叩いておいた。さすがに任務中は我慢しろ。
叩かれて下を向いたタカ丸が「あ!」と小さく叫んだ。
つられて俺も下を見ると、そこには探していた赤い蛇が。
「ジュンコちゃん!」
タカ丸がしゃがんでそっとジュンコを捕まえた。二人で無言で顔を見合わせ、そして走り出した。
まだ泣いているかもしれない後輩の元へ。