07
「こっちだああああ!」
よく聞く叫び声が耳に飛び込んできた。そしてそれは珍しく近くだったので、忍たまの友を滝に預けて廊下から庭へ飛び降りた。
まだ遠くないところに、走り回る方の迷子がいることを確認してから、今日も困っている後輩のために奔走することにした。まったく、左門と三之助と関わるとへたしたら一日潰れることがあるから大変なんだ。しかし、そんな大変な役をいつも作兵衛が担っているのだからたまには先輩の俺がしっかりしなくては。
走ってどこかへ向かおうとしている左門と距離をつめ、その後ろ姿に声をかける。
「左門、とりあえずとまれー」
「あ、北野先輩ではありませんか!」
振り返った左門が俺の方に足を一歩踏み出した。
「だから動くなって。俺がそっちへ行くから」
この短い距離でも変な方に行くのが左門だ。
慌てて左門の隣へ行き、走って乱れた左門の前髪を整えてやった。元気よく礼を言う左門に苦笑した。元気なのはいいことだが、どこか一年は組のよい子たちを彷彿とさせる。もう三年生なのだから少しは落ち着いて作兵衛を休ませてやれと言いたくなる。図太いのは長所だけど、そのまま上級生になって実地訓練が始まると苦労するぞ。作兵衛が。
「で、左門は何をしてたんだ? っていうか、どこに行こうとしていたんだ?」
「作兵衛と三之助で遊びに行こうと言っていたのですが、三之助が迷子になり、気づけば作兵衛も迷子になっていたので今捜しているところです!」
左門は胸を張って言う。突っ込みたいが、長くなるからやめた。
「あー、わかった。とりあえず作兵衛と合流するか。最後に一緒にいたのはどこなんだ?」
「裏山と裏裏山の中間付近です!」
「それでどうしてお前は忍術学園にいるんだ!」
気づけばここにいました! と悪びれず言う左門に肩を落とし、とりあえず左門の手を握った。さあ行こうとしたとき遠くの草むらの影からひょっこりと三之助が現れた。咄嗟に名前を呼んだが聞こえなかったらしくふらーっと校舎の影に隠れてしまった。
慌てて追いかけようと一歩足を踏み込んだと同時に腕がすごい勢いで反対側に引っ張られた。もちろん左門のせいだ。優しくしている時間はないので、左門の腕を力一杯引き、強引に走り出した。
「左門、走ろうとするな! 俺に引きずられていろ!」
有無を言わせぬ迫力で左門に言いつけて、ふらふらとさ迷っているだろう三之助を捜しながら走った。
「北野先輩、あそこに三之助がいますよ」
左門が指差した方に体を向け、また場所を変えられる前に捕まえなくてはと意気込んだとき、少し離れた校舎の廊下から俺を呼ぶ小田真希さんの声が聞こえた。が、今はかまってはいられない。時は一刻を争うのだ。
チラッと小田さんを見れば、別に困っている様子ではない。ただ喋りたいだけだろう。いつもより興奮ぎみではあるものの、三之助より優先するほどではない。
「もしかして、迷子の探索?」
遠くからそう叫ばれた。「そうです!」と返事を投げ返せば、「私も一緒に探すよ!」と甲高い声。
ジュンコを探しのなら人手はほしいが、すばしっこい三之助を追いかけるのに彼女はあまりにも足手まといだ。空を飛べたり瞬間移動ができるたりするのなら助太刀願いたいが、彼女がそういうことができないことも足が遅いことも知っている。
好奇心で来られても、天女に無茶はさせられないし邪魔なんだ。
「ちょっと今、それどころではないので!」
すでに小田さんは、遥か後ろにいる。聞こえているか不安だがとりあえず詫びの言葉を叫んで三之助がいるであろう草むらを目指し走った。
さっき見つけた草むらにはもういない。それはわかっていたからいい。走る速度をゆるめて、しっかりと左門の手を握り近くを見て回る。
木々の間から、ひょこひょこ動く三之助の髪の毛が見えた。いつの間にあんなに移動したんだ。
再び地面を蹴り、なんとか三之助の袖を掴んだ。
「あれ、北野先輩?」
なんでここに、と言いたげな顔。それは俺が言いたい。だけど今は一秒でも早く作兵衛を安心させてやりたい。
「ほら作兵衛のとこ行くぞ」
「行くぞー、三之助!」
左門も三之助の袖を掴んだが、三人で腕を掴んでいたら歩きにくい。それに左門と三之助が手を握っていても絶対に気づいたら手を離しているだろう。と怒って手を離させた。俺が右手で三之助の、左手で左門の手を掴むのが一番いい。本当は作兵衛みたいに縄で縛りたいが、そんなもの持ち歩いていない。
できることなら、男じゃなくて女の子を両手に侍らしたいものだ。豆のできた硬い手を握りながらそう思った。