08
休みの朝、箪笥の中を整理していると、この間、仲の良いくのたまの子に貰った着物が数着出てきた。それを見て、そういえば小田真希さんが化粧や着付けのやり方を教えてほしいと言っていたなと思い出した。小田真希さんは天界では形の違う服を着ていたらしい。そしてここでは普段、教師や生徒と同じく忍装束を着ているため、まだ普通の着物がうまく着られないそうだ。それならばと可愛らしい桃色の着物を持って小田真希さんが寝起きしている部屋に向かった。
小田真希さんはちょうど事務室の手伝いが昼からだったようで、俺が持ってきた着物を見て喜んでくれた。
「素敵な着物ね! こんなに女物の着物持ってるんだ」
「俺は女装が十八番ですからね。女物の着物の保有数でいえば忍たまナンバーワンですよ」
もちろん女装の腕前も、だが。
「すごいね! 私もこんな可愛い着物ほしいなあ……」
「それでしたら」
俺が提案を持ちかけようとすると、小田さんは顔を明るくさせたが、そのあとに続く「くのたまの子に交渉するといいですよ」という言葉で顔をしかめた。
「この着物もくのたまの子たちからいただいたものですよ」
「え?」
小田さんの声が低くなった。そういえば小田さんは忍たまといつも一緒にいて、くのたまと一緒にいるところは見たことがない。同じ女性なら忍たまといるよりくのたまと一緒にいる方が楽だろうに。生活の仕方だって手取り足取り教えてくれる。……ああ、小田さんはここの生活の仕方なんて知らなくてもいいのか。なんたって天女なんだから。
「くのたまって忍たまと仲悪いんじゃないの
「よくはないですけど、悪くもないですよ。この着物は俺の友人が髪を結ってあげるという交換条件で着なくなった着物を貰ってるんですよ」
そう言うと、小田真希さんが少し身を乗り出してきた。
俺はタカ丸に勉強を教え、タカ丸はくのたまの髪を結い、くのたまは俺にいらない服をあげる。みんなが幸せになる交渉だ。
小田さんがくのたまとの交渉に乗り気なのかと思い、交渉の方法を説明しようとすると「そんなことより」と、髪を結う俺の友人のことを訊いてきた。
なんだ、小田さんも髪を結ってもらいたいのか。
予約がいっぱい詰まっていることを前置きに伝えると、あからさまに落胆の色を見せた。
「ねえ、北野くん……北野くんからお願いできない?」
「申し訳ありませんがそれはできません。着物を譲ってもらうときも、いろいろと調整したり事前に予約を開けてもらったりしているので急に割り込むことはできないです」
「……そもそも、どうして北野くんが貰う着物のためにその人が髪を結うの?」
「それはその友人に日ごろ勉強を教えているからですよ。何かお礼をさせてほしいと言われてそういうことになったんです。だから、さすがに小田さんが天女さまでもできません」
くのたまの予約に割り込むなんて恐ろしいことできない。俺の残りの忍術学園での生活がめちゃくちゃになってしまう。
俺が斡旋することはできなくても、直接頼んでみることはできると言ってみたが、小田さんは少し機嫌が悪くなったようで、口をへの字に曲げている。
どうしたものかと思案していると、小田さんがぽつりと俺の名前を呼んだ。
「北野くんは……」
「はい?」
「北野くんは、私のこと嫌い?」
小田さんは涙目で俺を見た。そして身を近づけそっと俺の腕に手を添えてきたが、俺はその手を握り「それとこれとは話が別です」と言いながら小田さんの手を遠ざけた。俺に色仕掛けは通用しない。
小田さんは目を見開いた。
「嫌いではありませんよ。しかし、俺がその友人に頼むのはお門違いです。髪を結うことに関して俺は関係のない位置にいます。関係のない俺が友人に小田さんのことを斡旋したと知られたら今までのくのたまとの関係は崩れてしまいます。忍者は信頼関係が命ですから」
しっかりと目を見て伝えると、小田さんは目を逸らせた。これでこの話は終わりだ。床に広がったままの着物を手に取り、着物の着方を教えることにした。
気持ちを切り替えてほしいところだが、小田さんは一日落ち込んだままだった。