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「ばか野郎!」

 のんきに廊下を歩いていると、猛スピードで駆けてきた食満先輩が暴言を放った。
 大きな体から放たれた力一杯の怒鳴り声に思わず耳を塞ぎ顔をしかめてしまったために、食満先輩は「なんだその態度は!」とよりいっそう怒気を強めた。

「何度も何度も何度も何度も言っているが、お前は上級生相手に礼儀がなってない!」

 食満先輩以外からも、悪戯をする度にお叱りのお言葉はいただいている。それを受け流して、よりいっそう怒られるのもいつものこと。
 そもそも俺にだって言い分はある。

「騙される方が悪いんですよ」

 ここは忍術学園だ。忍者になれば騙し騙される。それを学ぶ学校なんだから、騙して怒られるのは納得できない。頻度が多すぎるのは目を瞑ってほしい。

「俺たち六年生が騙されたのなら、それは己の力不足だ。だが、お前が騙したのは下級生……それも一年生だろ!」
「一年生と言えども忍たまです。そうやって甘やかしているとくのたまに痛い目にあわされますよ。その点、俺の悪戯は怪我もなく安全です」

 傷つけるのは精神面だけです、と格好をつけて言う。

「だからって俺の格好して下級生のブロマイドを懐から落とすのはやめろ!」

 そこでようやく、どうして食満先輩が怒っているのか理由がわかった。なんせ息をするように悪戯をしているから、いったいいつ仕掛けた悪戯に食満先輩が怒っているのか皆目検討がつかなかったのだ。さすがに「どの悪戯に引っ掛かったんですか?」なんて馬鹿正直に聞いたらげんこつを食らいそうだから控えていた。
 食満先輩に突き返された、天使の笑顔の一年生が写ったブロマイドを懐へ仕舞った。それもただのブロマイドではない。隠し撮りブロマイドだ。
 さすがに食満先輩の姿で、一年生の隠し撮りブロマイドを落とすのはやりすぎたか。いつも満面の笑みで委員会をしているせいで、信憑性が増してしまったようだ。
 しかし、これを仕掛けたのは数日前。落ちたブロマイドを見て怯える平太と伏木蔵の表情を見て楽しんだが、そのあと一悶着あったのならもっと観察しておけばよかった。
 きっと平太は怯えながら委員会に参加しただろうし、食満先輩の名誉が地に落ちかけてしまった。あの子たちなら、種明かしをすればすぐ元通り食満先輩のそばに行っただろうけど。
 さっきはどの悪戯かわからなかったから適当なことを言ったが、今度はきちんと謝罪した。しかし先輩はまだ文句が言い足りないらしく、文句を言い連ねている。
 ああ、これは長くなるなと覚悟を決めて無心になろうとしたとき、ちくりと殺気を感じた。
 素早く横に転がり体勢を整えると、食満先輩と潮江先輩が戦っていた。殺気は潮江先輩が食満先輩に飛ばしたものか。
 しめた。今の内にと逃げようとすると、腕を潮江先輩に捕まえられた。見ると、潮江先輩が俺を睨んでいた。
 潮江先輩のターゲットは俺だったようだ。たまたま一緒に食満先輩がいたからとりあえず攻撃を仕掛けたということか。まったく、そのまま我を忘れていればいいものを。

「えー、俺、最近潮江先輩に悪戯した記憶ないんですけど」
「……お前は! 毎日毎日に飽きずに遊び回って! 仙蔵はお前のためにいろいろと動き回っているというのに」
「ああ。それで仙蔵のやつ、真希さんと一緒にいるのか」
「そうだ。今までも真希さんと仲の良い生徒から天女についての情報を集めていたが、真希さんが仙蔵のことを好いているようなので自ら真希さんと接触することにしたんだ」

 そんなことを言われたって俺は鉢屋先輩から普段通りにしていろと言われたんだから、普段通り悪戯を仕掛けただけだ。面白いことをすれば立花先輩も喜ぶんだから、いいじゃないか。とは、さすがに先輩相手に言えない。
 だけど俺は不満をそのままにはしておけない性格だ。

「先輩方が小田さんの怪しい動きを四年のやつらに伝えたじゃないですか。それのせいで周りがちょっとだけピリピリしてるんですよ。同じクラスのやつらも俺をできるだけ一人にさせないように警戒してるし」

 言外につまらないと伝えると「まったく、お前は本当に鉢屋に似ているな」と食満先輩に呆れられた。
 それに対して潮江先輩が「こういうときは大人しくしているのが当たり前だ」と小言を言い出したところで、そういう話は聞き飽きたと耳を手で覆い、力いっぱい逃げ出した。
 その場から離れさえすれば、あとは自滅してくれるだろう。
 思った通り、後ろから「逃げられるとは情けない奴だな」「なんだと留三郎!」「やるか文次郎!」と喧嘩を始める音が聞こえた。
 じっとしていられないのは先輩たちもなのに、俺ばっかり叱られるのは納得いかない。先輩たちが犬猿の仲だからすぐぶつかり合うのと同じで、俺は大人しくしていられないから悪戯に勤しむのだ。いくら小田さんが不穏な動きをしているからって我慢なんてできないし、しようとも思わない。

ヒトリヨガリ