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 立花先輩が一歩小田さんに近づくと、今までの優しい表情を一転させ冷ややかな表情で彼女を見下ろした。美人が睨むと怖い。小田さんを囲っている中の潮江先輩や七松先輩だって無表情で怖いが、立花先輩のそれとは少し違う。

「真希さんには黙っていましたが、実は真希さんのような天女が前にも一度忍術学園に来たことがあります。我々は天女について知識がほしいのです。少し質問に答えていただけますか?」

 断るなんて初めからできないことを小田さんもわかっているようで小さく首を縦に振った。

「では、先程も言いましたが、前もここには天女様が来ています。話を聞く限り、前の天女様と真希さんは同じところから来たように思われるのですが、天女様のいた世界の方は皆そのような不思議な力があるのですか?」
「みんなじゃないと思う。それに私も元の世界とこっちとを自由に行き来できるわけじゃないわ。……あと、たぶん仙蔵くんが言う通り、前の天女っていうのは私がいた世界の人なんだと思う。……でも、その前の人が誰か知らないからその人が行き来できるのかどうかまではわからない」

 何かに怯えるように小さな声で話す小田さんに疑問を抱きながらも、俺たちは他にも彼女に質問をぶつけた。
 どうやって来たのか、なぜ来たのか、天女とはどのような生き物なのか、今までわからなかったことを聞いたが、その答えは「わからない」というものばかりだった。
 小田さんが優子さんのことを「私がいた世界の『人』」「前の『人』」と呼んでいたのが引っ掛かり尋ねると、小田さんや優子さんは天女ではなくただの人間であり、俺たちと何も変わらない生き物だということが判明した。それなのに、なぜ何もないところから現れたり消えるのかは、やはり「わからない」らしい。

「……先の方もあなたも、私たちを知っているような口振りで話すときがありますが、どうしてですか」
「それは、みんなのこと知って……あ」

 しまったという顔で口を閉ざした。青ざめて下を向く小田さんを追い詰めるように先輩方が一歩近寄るが、一番瞬発力の高い七松先輩が小田さんの腕を掴むより早く、先輩から逃げるように小田さんは消えてしまった。優子さんと同じように。
 結局、天女について謎が深まるばかりだったなと、肩を落とした潮江先輩に顔だけ小田さんに化けて慰めてみた。案の定怒られたが、潮江先輩に怒られたことよりも立花先輩に変装の出来を褒められたので嬉しかった。



 小田さんが消えて一晩経つが、優子さんのときとは違い、あまり騒がれなかった。とはいえ天女という謎の存在に振り回され、疲労しているような感じはする。お昼寝の人数が多い。だが天女騒動なんて、学園長先生の突然の思いつきやドクタケとの急な戦いと比べたら可愛いものだ。

「なあ喜八郎、小田さんがこの団子を食べられないのは可哀想だな」
「どうして?」
「ああ、お前は知らなかったか。小田さんたちがいる天界は美味しいご飯が食べられないらしい。食堂のご飯を今まで食べた何よりも美味しいと言っていたからな」
「それは可哀想だね。天界へ帰ったってことは、もう美味しいご飯が食べられないってことになるんだ。僕だったら生きていけないなあ」

 しみじみと団子を頬張る喜八郎に、小田さんの分まで味わえよと言っておいた。ユリコの手入れをしていた三木は何か言いたげにこちらを見たが、ため息だけ吐いて手入れに戻った。
 五年と六年の先輩方は天女についての会議ばかりでつまらないが、たまには喜八郎とまったり過ごすのもいい。三木はその点、無駄なことは言ってこないし、面白いし申し分ない。

「あー、確かに面倒くさいところもあったけど、ご飯が食べたくなったら、また来たらいいのにな」
「そうだね。長いこと居座られたら嫌だけど、お昼ご飯だけ食べて帰るのだったら別に構わないね」
「……あのな、お前ら、先輩方の方針は天女様とはあまり関わらないことに決まったんだから、あまりそう言うことを外で言うな」
「そうだけど、それは害をなそうとしてる場合でしょう。ご飯ぐらいいいじゃない。三木ヱ門はケチだねー」
「ご飯食べに来て、ついでに天界のこと言ったらもう先輩方は会議しなくていいじゃん。それくらいいいじゃん。三木はケチだな」

 喜八郎と一緒に言うと、三木は怒ったように眉間に皺を寄せたので、慌てて謝った。俺と喜八郎がちょっかいかけるなんて、よくあることなので三木は諦めたようにため息をついた。ため息ばかりつかせて申し訳ない。

「平和だなあ」
「平和だね」
「そうだな、平和だ」

 青空を眺め、面白いことが起こればいいなと思いながら、最後の団子を口に入れた。
 いつ食べても天乱子堂の菓子はうまい。

ヒトリヨガリ