03

 昼寝をするには少し暑いくらいの日射しの中、俺と天女は日向ぼっこをしていた。
 何度か部屋に戻ることをすすめたが、天女は頑なに中庭から離れなかった。曰く、憧れらしい。俺には中庭で日向ぼっこをするのに憧れる意味がわからないが、体調を崩すほど日が照っているわけではないから妥協した。
 天女とのんびり空を見上げ、たまに近くをとおりがかったくのたまが声をかけてくるのに応える。

「前から思ってたんだけど、お市ちゃんってくのたまの中で権力持ってるよね」
「あら、権力ですか。……そのような自覚はなかったです」
「うーん、権力っていうか女王様みたいな感じ。皆お市ちゃんを慕ってるし。……梅ちゃんだけじゃない? お市ちゃんに堂々と反論できるのって」
「確かにそうですね」

 皆はただ俺のことを面白おかしく見ているだけだが。
 だけど俺がお市としてくのたまの中に入ったおかげで、力仕事の雑用を任されている。そういう点では俺はくのたまに一目置かれていると言える。

「でも慕われてるんだけど距離を置かれている感じもするのよね。不思議なことに」
「まあ、それは悪口になりません? 私だって悲しむんですよ」
「ごめんごめん、嫌いだから距離を置くっていう感じじゃなくて……えっと異質……でもなくて、とりあえずお市ちゃんは不思議な雰囲気があるの!」

 「もう、恵子ちゃんってば」なんて口では言うが、俺が異質であることは間違いない。
 どこか探りを入れながら話す天女に冷や汗が流れる。敵対心は感じないが、どこか疑っているような目をしている。仲良くしているのに酷いものだ。
 ――男だとバレて面倒事が起きれば今度こそ先輩方に怒られる。
 話を反らすように学園の外の話をすると、予想以上に食いついてきた。優子さんや小田さんは外の話はつまらないようで、学園内の話を請うことが多かったので驚いた。
 町の美味しい団子屋さんや、綺麗な花が咲いているところなんかを紹介すると、「今度みんなで行こうよ」と笑った。その顔にさっきのような懐疑心は見えない。天女も、知り合いが誰もいないところに来て情緒不安定で疑心暗鬼に陥っているのかもしれない。
 ――ここで親しい人ができると、天女の不安もなくなるかもしれないな。
 そう考えて、俺の知っているくのたまの紹介に話を変えた。中でも梅の話に興味を示した。

「へえ、梅ちゃんとは幼馴染みなんだ」
「ええ。でも幼馴染みと言っても出身が同じだけですわ。学園に入学するまでは今のように仲がいいというわけではありませんでしたから」
「どうして? 同い年だったら友達になりそうなのに」
「どうしてでしょうねえ。……私のいた村は大きくて、私の家と梅の家が遠かったからでしょうか。たいした理由はありませんよ」

 村の両端に家があったから、行事や何かの集まりのときは顔を合わせていたが普段から遊ぶということはなかった。性別の違いはさほど問題ではなく、家の近くのやつらだけで事足りたのだ。
 ああ、それと――。

「あと、梅の家に行くより隣の村の方が近かったんです。その村に兄のような存在の人がおりましたから、幼い頃はその方と遊んでいましたわ」

 家も近く、性別も同じ。そして俺の世話を焼いてくれた人がいた。……実際は俺の方があれこれ助けていた記憶があるがそれは言わないお約束だ。
 そんなこんなで、梅とは忍術学園に入学してからやっと仲良くなって悪友と言い合えるほどになった。

「……その人って忍たまだったりする?」

 天女が真正面から俺を見て言った。

「あら、よくわかりましたね」
「女の勘よ」

 引きつった笑顔が引っ掛かるが、確かに優子さんも勘がよかった。やはり天女たるもの不思議な力を持っているのかもしれない。背筋に冷たい汗が流れた。
 優子さんに女装を見破られた過去があるので、これ以上の接触は危ないと判断し、適当に理由を並べその場を離れた。そしてそのまま山本シナ先生の下へ行き、「お市は明日から長期任務に就く」ということにしてもらい、天女との接触を減らすことにした。
 これでしばらく面倒事とはさよならのはずだ。

ヒトリヨガリ