05
俺ののんびりとした休日はクラスメイトによって妨げられた。そいつは藤原と言い、それなりに仲がいい。特にタカ丸が入学してくるまでは、よく一緒にいた。
その藤原は朝、俺の部屋に来ると膝をついて頭を下げ、変装を教えてくれと頼んだ。そういえば来週、変装のテストがあったなと思い出し、人に変装させる練習になるだろうし快諾した。
一度自分で化粧をしてもらい、それを落としたあと俺が問題点を指摘しながら丁寧に化粧を施した。できの違いに藤原が感動してる中、俺も変装しようと思い立ち軽く変装した。俺も藤原も、誰か、というわけではなく別人の男に変装しただけだ。特定の人に化けるのは難しいが、自分であることをバレないようにする変装は簡単だ。テストのときの注意点だけ伝えて変装の練習は終わりとなった。
しかし折角変装したのだから、化粧の持続力や化粧直しの練習もしようと提案し、変装したまま過ごしていた。校庭の木陰でゆったりと世間話をしていると、じゃりじゃりと足音が聞こえてきたので会話を中断した。
音の正体は天女だった。天女は周りを注意深く警戒し、俺たちのそばまでやってきた。
「ねえ、君たち……ちょっと聞きたいことがあるんだけど時間ある?」
「はい? なんでしょうか」
素知らぬ顔で天女に対応したが、次の「くのたまのお市って子のことなんだけど知っている?」という言葉に隣の藤原が身を固くした。藤原はあまり嘘や言い訳が得意じゃないからなあ。できたら天女と話したくはないが、致し方ない。
「お市ですか。あまり詳しくは知りませんが……。彼女がどうかしましたか?」
平然と言ってのければ藤原がどの口が言うとばかりにこちらを見た。
「お市ちゃんの幼なじみが忍たまにいるそうなんだけど、それ誰か知らない?」
どうして俺の幼馴染みが気になるんだろう。
忍術学園では幼馴染みとは距離を取っていて、二人きりのときじゃないと親しげに話しかけない。だから藤原も俺の幼馴染みは知らない。知っているのは梅くらいか。もしかすると鉢屋先輩あたりは察しているかもしれないが。
というわけで、大々的に幼馴染みだと公言していないのだから答えは「知らないです」が正解だろう。藤原も「私も」と短く答えた。
「仲がいい忍たまとかも知らない?」
天女の追及に、それなら答えてもいいかと思案する。
お市が忍たまとよく一緒にいるのはみんな知っていることだ。特定の人物までは言わないが。
「六年生の内の数人と仲がいいです。……なので幼馴染みがいるとすればその中の誰かかもしれませんね」
「六年生!?」
すっとんきょうな声を出したかと思うと食いぎみに「お市ちゃんって六年生と仲が良いの?」と聞いてきた。あ、これは選択肢を間違えたかもしれない。やはり天女はどこに反応するかわからないな。
「え、ええ。数人の六年生とは廊下や食堂で会えば話す程度の仲だと思います」
「そう……、ねえ、……お市ちゃんの悪い噂とかって聞かない?」
困ったように眉をひそめる天女。慎重に言葉を選んでいるようにも見える。
事実を少し改変して捏造しようにも俺の噂を俺が知っているわけもなく、しかたなく「私は特に……」と藤原に任せることにした。
「悪い噂ってほどでもありませんが、よく悪戯する……とかは聞きます」
「お市ちゃんが? 悪戯するようには見えないのに」
「も、勿論くのたまにはしませんよ。……あー、忍たまの五年生とかによくしていますね。……でも、くのたまが忍たまに悪戯するのなんて普通なので、やっぱり悪い噂ではないですね」
ピクリと、またしても天女が反応した。藤原が何かまずいことでも言ったかと焦っているが、俺には無難な答えを言ったとしか思えなかった。
藤原の代わりに次は俺が口を開く。
「あの安池さん、例えば悪い噂ってどのようなものです?」
「え、あ……うーん、お市ちゃんが怖いとか……かな」
はぐらかしている感じが物凄くするが、あまり深く掘り下げても俺が困るかもしれないので触れないことにした。
「ないのならいいのよ。変なこと聞いてごめんね!」
じゃあ、ありがとうねと言って足早に去っていった。藤原と顔を見合わせて、何だったんだろうと首をかしげた。
「一応、先輩に報告した方がいいんだろうなあ」
めんどくさい、と言わんばかりの俺に藤原は苦笑した。そして「報告しない方がめんどうになるだろ」と励ますように肩を叩いてきた。
まったくそのとおりなんだが、別に仲良しこよししていない幼馴染みのことを聞かれて、煙もたっていない悪い噂を探られているなんて、また鉢屋先輩に気苦労をおかけすると思ったら重い気持ちになってしまう。
安池恵子とはいい関係が築けていたと思っていたんだけどなあ。