10
ある晴れた日だった。
目に刺さるほど鮮やかな青空の下を気持ちよく歩いていると、木陰で何やら楽しげに話している彦四郎、庄左ヱ門、恵子ちゃんの三人を見つけた。初めて見る組み合わせにどんな話をしているのかと気になって近づけば、庄左ヱ門が恵子ちゃんに彼女の時代のことを聞いていた。それ矢継ぎ早に。
遠目から見たときは楽しそうだと思ったけど、実際に笑顔なのは庄左ヱ門だけだ。恵子ちゃんは勢いに圧されてたじたじだし、彦四郎は話についていけてない。
知識欲ゆえに暴走する庄左ヱ門になす術もなく目を回す二人が可笑しい。
「庄左ヱ門、そのへんにしておけ」
そう声をかければ、目に生気が戻った彦四郎が真っ先に「あっ、北野市蔵先輩!」と俺に気づいた。その声に庄左ヱ門も俺を見、次の瞬間には二人仲良く立ち上がって「こんにちはー!」と頭を下げた。
「こんにちは。元気だなあ」
両手で二人の小さな頭を撫でてから、庄左ヱ門に「知りたがるのはいいけど、相手の様子をきちんと見ておかないと。恵子ちゃんが疲れているぞ」と注意した。
「え、あ、すみません……」
「ううん、私も途中で止めればよかったんだけど……」
二人でぺこぺこと頭を下げるのがまた面白い。だが、ずっと微笑ましく見ているわけにもいかない。
「庄左ヱ門、一つのことに熱中するのは相手の迷惑になるだけじゃなく、五車の術にかかりかねないから気をつけろよ」
「はい、先輩」
「彦四郎も、ちゃんと自己主張しないと。どんどん話を進めていくのに流されていたら、これからやっていけないぞ」
「はい、すみません」
凛々しく返事する庄左ヱ門と彦四郎の態度が心地よくて、俺もからっと笑ってもう一度頭を撫で回した。可愛くて真面目で素直。なんてよくできた後輩だろう。
その時、強い視線を感じた。
気づいていないフリをして視線の先、恵子ちゃんを横目で見た。じっと瞬きすることなく俺を見上げている。何かを考えているようだが、何か企んでいるという嫌な感じはしない。
どちらかというと、これはまるで……。
「すきだなあ」
まるで、恋している乙女の顔だ。
「え?」
恵子ちゃんから漏れ出た言葉に、その場の全員が驚いた声を上げた。漏らした彼女自身も。
自分が何を口走ったのか気づいた恵子ちゃんは、バッと自分の口に手を当てて顔を紅潮させた。
彼女を見て俺の考えは合っていたのかと腹に落ちた。……のだが、さてどうするか。
返答に困っているのを察したのか「きゅ、急にごめんなさい。あの、好きなのは本当だけど、でも気にしないで」と早口で言って頭を下げた。
そして俺が口を開く前に「これからも変わらずに仲良くしてくれると嬉しいな!」と付け加えてから、勢いよく立ち上がって走り去って行った。
その場には、遠い目をする俺、ぽかんと口を開いている彦四郎、そして何やら神妙な顔の庄左ヱ門が取り残された。
「どうするんですか、北野先輩」
「相変わらず冷静だな、庄左ヱ門。……どうするって言われたってなあ。恵子ちゃんは気にするなと言っているんだからとりあえず様子見かな」
「それもそうですが、先輩方への報告のことです」
ぎくりと庄左ヱ門から目をそらした。
絶対に報告するべきだろうが、またややこしくなるのは御免被りたい。だけど責めるような庄左ヱ門の目が痛い。きっと黙っていたら先輩方もこんな目で見てくるのだろうな。言わない方が面倒なことになることはわかっている。わかっているけど……。
「北野先輩、尾浜先輩と鉢屋先輩は今食堂にいるはずですよ」
心配そうな顔をした彦四郎も、言外に先輩方に報告するようにと言ってくる。
「そうだよなあ」
まだまだ日が暮れそうにない明るい空を見上げて、重い息を吐いた。