06
三木が俺の部屋を訪れた次の日は学級委員長委員会の日だった。最後の授業が裏裏裏山での実技だったので走って向かっていたが、途中滝に捕まって少し遅れてしまった。
障子を開けるとすでに茶会の準備が整っていた。三人の顔が一斉にこちらを向く。
「おお市蔵。遅かったな」
「すみません。滝の愚痴を聞いていたら遅くなってしまいました」
頭を下げながら輪に入ると庄左ヱ門がお茶を彦四郎が今日の菓子を渡してくれた。立派な丸々とした干し柿だ。「おお干し柿か」と声を上げると、彦四郎は「中に白餡が入っているんです」と説明をしてくれた。
これで全員の前に茶と菓子が揃った。「じゃあ、いただこうとするか」と鉢屋先輩がまず初めに手をつけた。それを見てから俺たちも干し柿に手を伸ばす。
「他の委員会は大変そうだな」
他人事のように言った。我々学級委員長委員会は、学園長先生の突然の思いつきさえなければただの茶会委員会だからだ。
「ええ、滝と三木が嘆いてますよ。……三年生が捕まらないって」
「ああ、富松作兵衛も委員会が忙しくて手が回らないのか」
「そうみたいです。用具委員会は三年生の彼が一年の三人を纏めているそうですから」
腕を組んで何か考えている様子の鉢屋先輩に一年生の二人が首を傾げた。
「手の空いている我々が手伝えばよいのではないですか?」
「そうしたいところなんだけどね、俺たちが行ったところで知識がないわけだし、他人の領地に土足で踏み込んでるようなものでしょ?」
俺の言葉に鉢屋先輩が頷く。
「そうだ。だから先輩や私の友人の穴は顧問の先生方が埋めていたわけだが……。確かに私たちは他の委員会に対して気楽すぎるな」
「まあ、それは元々ですけどね」
二人ではっはっはと笑う。庄左ヱ門と彦四郎は冷たい目で見てくるが、二人は硬すぎるんだ。肩の力を抜いてゆる〜くしているくらいがちょうどいい。他の委員会も、忙しいだけで命の危険があるわけでもない。
ゆるく俺たちなりに助ければいいのだ。鉢屋先輩の表情を見れば、何か妙案を思いついたことは一目瞭然だ。今の状況に似つかわしくない楽しそうな表情を浮かべている。
「彦四郎」
「はい」
「前に土井先生から、は組の勉強を庄左ヱ門と一緒に教えてやってくれと頼まれていたな?」
「はい」
「あれはそのあとどうなった?」
「安藤先生の乱入と土井先生の多忙のためうやむやになりました」
「そうか。なら、その案を実行してくれ」
「え?」
「庄左ヱ門。お前は、は組の暴走を出来る限り抑えてくれ」
「はい」
「市蔵」
「はい」
「お前は三年生の迷子二人の捜索だ。二人もいるんだ、委員会中どちらかが迷子になっている可能性が高いだろう。そして捕まえた迷子を保護者に返してやれ」
「……はい」
俺だけ面倒な仕事が割り振られた。だけど彦四郎と庄左エ門は一年生、俺は四年生なんだから仕方がない。神崎左門と次屋三之助を捕える役は俺が一番適している。
最後に鉢屋先輩は自分自身の胸に手を当てた。
「私は先生方の雑用をしよう。手が空いた先生方は委員会活動の補助ができる。……これで間接的に他の委員会に協力もできるようになるだろう」
満足そうに頷く鉢屋先輩は「まあ特に忙しいのは土井先生だ。他の委員会はじきに楽になるだろう」と一年生二人の頭を撫でた。二人とも鉢屋先輩の案に嬉しそうにしている。
「あと、作法委員はまったく問題なく活動しているそうだから迷子二人を見つけたら返しておいてもらえるように掛け合っておこう」
そして意地悪く笑いながら「六年長屋と五年長屋にカラクリを仕掛けておくようにも言っておく」と言った。俺は一年生二人と顔を見合わせて笑い、同時に鉢屋先輩に飛び付いた。
俺だって友達が大変な思いをしているのを一顧だにしなかったわけではないのだ。