07
「おーい三之助!」
「あ、作兵衛。こんなところにいたのか、探したぞ」
「探したのはこっちだー! まったく、こんな山奥まで来やがって。早く帰るぞ」
三之助の腕を取って引っ張ったが、三之助は立ち止まったまま動こうとしない。
「……作兵衛じゃないな? お前は誰だ」
「ほう、鋭いな」
じりじりと逃げようとする三之助を安心させるために作兵衛の変装を解いた。俺の顔を見た三之助はいつも通りの気の抜けた雰囲気に戻った。掴んでいた腕を放してやると、距離を取るために数歩後ろへ下がった。
「市蔵先輩でしたか」
「滝に三之助が迷子になったと聞いてな。ついでに驚かそうと作兵衛に変装したんだ」
「心臓に悪いことしないでくださいよ」
「まあまあ! それが俺の楽しみだからな!」
学級委員長委員会で迷子二人の捕獲を任された帰り道。さっそく捜索要請が出た。滝が「三之助がいなくなった!」と騒ぐのはいつものことだが、普段は、俺は滝を応援するだけで面倒ごとには関わらなかった。だけど今日は俺が捜索を買って出たので滝は目玉が落ちるんじゃないかと思うほど驚いていた。そんな顔が見られるなら、今までも手伝ってもよかったかもしれない。
滝の愉快な顔も見られて、三之助を驚かすこともできて、とても気分がいい。さすがは鉢屋先輩だ。
三之助を体育委員が活動している場所へ連れていく間、どうして作兵衛じゃないと気付いたのか尋ねると「作兵衛はすぐに縄を巻き付けてくるから」と返してきた。それで判断される作兵衛が可哀想だ。そして手を握っているだけの現在の状況に一抹の不安を覚えた。俺も縄を巻き付けた方がいいのだろうか。
「そうだ三之助」
「どうしたんですか」
三之助の顔を見ていると、またむくむくと悪戯心がわいてきた。
「ちょっと悪戯に付き合ってくれ」
+++
「滝夜叉丸先輩! 三之助先輩がいましたよ!」
皆本金吾の報告を受け、滝夜叉丸は慌てて指差す方へ向かうと、確かに近くに人の気配がした。しかし気配は二人分ある。
市蔵のものだろうと滝夜叉丸は見当をつけたが、警戒するに越したことはない。ただちに後輩二人に隠れるように指示し、自分も木陰に身を隠し声の方を見遣った。すぐに二人組は滝夜叉丸のそばまできた。話し声もすべて聞こえる。
「こっちだって」
「え? でもこっちの方から声がしましたわ」
「うん? そっち?」
「いえ、こっちですわ」
三之助と一緒にいたのは女だった。それも女の方が三之助に寄り掛かるように腕を組んで歩いている。そのことに後輩二人は大きなショックを受けた様子である。委員会中だというのに、女性と仲睦まじく呑気に歩いているとは。しかし長年市蔵の友人をしてきた滝夜叉丸は冷静に二人の行動を見ていた。
「……こんなところで三之助さんに会えるなんて思ってもみませんでしたわ」
「俺も」
「早く三之助さんの委員会の方に会えるといいのですが……」
「みんなすぐに迷子に……な、なるから」
「ふふふ」
久方ぶりに会った恋人のような会話する二人に滝夜叉丸が近づき、女の頭を叩いた。
「滝夜叉丸先輩! 三之助先輩の彼女になんてことを」
「じょ、女性を叩くなんて……」
わたわたとする皆本金吾と時友四郎兵衛に、滝夜叉丸は冷静に「こいつが女ならな」と返した。
「やっぱり滝にはすぐにバレたか」
変装を解いた市蔵は頬を膨らませた。
「三之助が言葉に詰まったところでな。敬語で話し慣れているから会話が少し途切れていた」
「だってさ、三之助」
「もうちょっと演技うまくなれよ」と三之助の頭を撫でてから「じゃあ俺の仕事は終わったからな」と言って#name2はしゅっと木の上に乗った。滝夜叉丸が礼を言う前に市蔵は枝を蹴り、忍術学園の方に消えていった。
残された体育委員会は溜息をつく。
「なんか俺が慰められたみたいですね。俺がやりたいって言ったわけじゃないんですけど」
「市蔵はそういう奴だ。諦めろ」