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 お祭り騒ぎは好きだけど、事件の渦中に飛び込みたいわけではない。通りがかりに出店を冷やかすような気軽さで、外野からやいのやいのとヤジを飛ばすのが今までの俺だった。
 一人目の天女が来てからというもの、俺はあまりにも目立ちすぎている。
 伊作先輩は、きっとそれを心配しているのだろう。
 それはすごくありがたい。俺だって知らんぷりしてタカ丸の勉強に付き合ったり、滝と三木の小競り合いを囃し立てたり、喜八郎の穴掘りに付き合ってのんびり空を見上げたり、そういう平和すぎる日常を愛しているのだから。
 だけど俺は恵子ちゃんと出会い、知ってしまった。彼女は俺を好きになってしまった。
 その事実を消し去ることなんてできないし、今更距離を取ることだって俺はしたくない。
 自分で蒔いた種なのだから、俺がケリをつけなければいけない。




「けーいこちゃん、あっそびーましょー」

 鮮やかな青空に、白い雲が浮かぶ午後。恵子ちゃんが裏門のそばで掃き掃除をしていると聞きつけた俺は、とびきり可愛い格好をして恵子ちゃんのもとへ駆け寄った。俺を認めた恵子ちゃんは大きな目をもっと大きく、それこそ目玉が転がり落ちるんじゃないかってくらい見開いていた。
 こうして恵子ちゃんと会うのは突然告白された日以来だ。あの話し合いの場では、顔を合わせたけれど言葉を交わしていない。だから、きっと驚くだろうと思っていたから予想通りの反応で大満足だ。

「なんで……市蔵くん」
「だって恵子ちゃん言ったじゃないですか。告白のことは気にせず仲良くしてって。残念ながら返事はできませんけど、俺だって恵子ちゃんと遊ぶのは楽しくて好きですから」
「絶対に鉢屋くんや立花くんが止めると思ってた……」
「交際は認めないって感じですけど、友人としてならいいと思いますよ」

 そう言うと恵子ちゃんは顔を綻ばせた。
 色良い返事をしたわけでもないのに心底嬉しそうにする恵子ちゃんを見て、本当に俺のことが好きなんだなあと実感した。心がぽかぽかする。
 しかしいつまでもお互いに微笑み合っていても何も始まらないので、恵子ちゃんを連れて忍たま長屋の俺の部屋に行くことにした。恵子ちゃんはいつも与えられた服しか着ていなくてお洒落なんて全然しない。なので俺の女装道具を使って楽しんでもらおうという魂胆だ。
 箪笥から取り出した着物や小物、化粧道具を畳の上に並べると、恵子ちゃんは目を輝かせた。
 女装を極めるために道具はたくさん集めてある。その中から恵子ちゃんをより一層、可愛くなるように見立ててあげた。普段、同級生に女装の世話をするのとは全然違う楽しさに、俺もつい張り切りすぎた。できあがった恵子ちゃんは、まるでどこかの姫君がお忍びでいらっしゃったかのような出立ちになった。

「普段の恵子ちゃんとはひと味違う良さがありますね」
「というより別人じゃない?」
「……確かに恵子ちゃんだって言われなかったら気づかないかもしれないです。……あ、そうだ、いい悪戯を思いついたので外へ行きましょう!」

 外に出て、誰かいないかと歩いていると、ちょうどいいところに左門が一人で歩いていた。まあ彼の場合、迷っているのだろうが。
 左門は俺たちに気づくとこちらへ近寄ってきた。

「北野先輩ではありませんか! 先輩も厠ですか?」
「うーん、厠は向こうの方なんだけどなあ……、まあいいか」
「おや、先輩、そちらの方は?」
「この方は、六年い組の立花仙蔵先輩の許嫁だそうで、今先輩のところまでお連れしているところだ」

 立花先輩の許嫁と聞いた左門はぽかんと口を開けたまま恵子ちゃんを見つめた。恵子ちゃんもぎょっとした様子で俺を見たが、すぐに俺のしたいことを察知しにこっと微笑んだ。そして、こっそりと秘密を打ち明けるように「仙蔵さんとは幼馴染みでね、彼がおねしょして泣いていたときからの仲なの」と無邪気に言った。
 左門は開いた口をそのままにして、そうっと後退り、そのままよくわからない方向に作兵衛の名を叫びながら駆けて行った。

「ふっ……、ふふふ、あはははは! いたずらってこんなに楽しいのね!」
「わかってくださいましたか。あの左門の顔、そして俺たちを探しにやってくる立花先輩の反応もいたずらの醍醐味ですよ」

 涙を流しながら笑う恵子ちゃんの手を引いて、すぐに立花先輩に捕まらないように逃げることにした。先輩から逃げるのもスリルがあって面白い。
 遠くから聞こえてくる左門の雄叫びを聞きながら、俺たちは束の間の逃避行を楽しんだ。

ヒトリヨガリ