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翌朝、日が昇り忍たまたちが目を覚ましだすと、朝食を待たずに俺とタカ丸は立花先輩の元を訪ねた。そして昨夜の一部始終を報告した。
立花先輩も想定外のできごとで目を見張ったが、流石は六年生。すぐに状況を把握して「今までの天女さま同様、帰ったのだろう」と結論づけた。
俺としては、恵子ちゃんはここに残りたいと言っていたのだから帰ってしまうのはおかしいと思うのだが、立花先輩には日常に戻るようにと言われてしまったし、俺に何かできることがあるわけでもないから、渋々朝食を掻き込んで授業を受けた。
恵子ちゃんのことが気にかかって落ち着かず、先生のお話も上の空になる。……なんてことは一切なかった。これは俺が薄情なわけではなく、もう天女が帰ってしまうのは三度目だから慣れたのだ。多少動揺しているが、 天女はそういうものなのだという気持ちが強い。
しっかりと授業を受け、放課後になって俺は立花先輩に呼び出された。天女対策会議をするらしい。今までは六年生と五年生だけで行われていたが今回はついに俺も出席することになった。
「また来るのだろうか……」
立花先輩は苦々しい表情を浮かべた。
それに対して、あっけらかんとした様子の食満先輩が口を開く。
「まあ来たら来たときだろう。一年生なんかは次の天女がどんな方か楽しみにしているぞ」
「……それも問題なんだ。あくまで天女は部外者。どんな方かもわからないのだから慎重にいくべきだろう」
「まったく仙蔵は頭がかたいなあ」
呆れたように食満先輩は短く息を吐いた。
「私は、そろそろ一緒に塹壕掘りができる天女がいいなあ」
七松先輩がそう言ったのをきっかけに、先輩方は口々に「あちらの世界の書物の話を聞きたい」やら「それなら薬の話を」など理想の天女について喋りだす。
六年生の集中が欠ければ、それが五年生にも伝播する。
「俺の作った豆腐料理を食べてもらうだけじゃなく、天女さまの世界の料理を作ってもらいたい」
「それなら俺はお菓子を作ってもらいたいかな」
「うーん僕は……、一緒に本を読むか、それとも中在家長次先輩のようにあちらの世界の書物の話を聞くか、どちらにしよう……」
「両方やればいいじゃないか。天女もきっと、それくらい許してくれるさ」
「俺は動物の餌やりを一緒にやりたいなあ」
いつしか部屋は静寂を忘れたように騒がしくなっていた。
あまりにも想像していた会議と違う様子に驚きつつも、ああいつものやつだと安心した。が、それを立花先輩が許容することはなかった。
「いい加減にしろー! 誰が好きな女にされたいことを話せと言った! これは天女対策会議だ」
「とは言っても、私たちがいくら話し合ってもどうにもならないことはどうにもならないだろう? それなら、いけいけどんどんで私たちが天女を巻き込む方がいいのではないか?」
「ぐ、まあ……確かにそれも一理あるが……」
色んな言葉を飲み込んだ立花先輩は、長い長い息を吐いてから俺に向き直った。
「北野は何か意見はあるか?」
「そう、ですね……。……私は概ね七松先輩と同意見です。付け足すとすれば、今までの天女さまは先輩方に対してはたいへん友好的なので、こちらが下手にでなくても問題はないかもしれません」
「というと、今までのように丁重にもてなさなくてもいいと?」
「ええ。元々先輩方を知っているのなら、自然体の方がこちらの思惑がバレずに済むと思います」
ここでの思惑とは、天女を帰すか帰さないかだ。恵子ちゃんは害がなかったので本人の意志を尊重することになったが、今後問題のある天女が来た場合はお帰り願うかもしれない。そのとき波風を立てず本人に自発的に帰りたくなるように仕向ける可能性がある。
立花先輩は「なるほど」と頷いた。
そろそろ会議も終わるか、と窓の外に目を向けた。
部屋に入ってまだ時間は経っていないが、委員会活動やその他用事を済ませてから始まった会議なのですでに外は暗い。
立花先輩が満足するのが先か、七松先輩が勝手に終了宣言をするのが先か。
そんなことをぼんやりと考えていると、何の前触れもなく障子の向こうがぼんやりと白く光った。一切音も気配もなかったのに。
先輩方は「誰だ!」とか「何事だ!」と警戒し、ぴりりと殺気立ったのが肌でわかった。
一触即発の雰囲気の中、そんな空気をもろともせず障子はゆっくりと開かれた。
「こんばんは」
呑気な挨拶とともに現れたのは、うっすらと口元に微笑を称えた女性だった。
誰も、口を開けない。いや、ほとんどの人は口をぽかんと開けていた。だけど声を出すことができなかった。
きっと、俺だけでなくみんなが思っただろう。
ついに天女さまが来た、と。