3

 降谷くんが身動きするたびに、亜麻色の柔らかい髪がゆったりと揺れる。
 私はそれを見るのが好きだった。暖房の風を受けて揺れる髪は、まるで演舞を舞っているように優雅で華やかだ。居酒屋の汚れた蛍光灯に照らされているだけなのに、まるでスポットライトを浴びた主役のように輝いている。
 大学のときも、みんなが降谷くんに注目していた。一挙手一投足を見逃したくないとばかりに講義中でもちらちらと視線を感じることが多かった。
 降谷くんのかっこよさが造形だけの問題だったら、きっとそうはならなかった。
 顔のいい人間なんて、この世にごまんと存在している。オシャレな店に入れば、見た目のいい人が一人はいるだろう。普段は直接見れないけど、美男美女の芸能人だってたくさん存在している。
 降谷くんの魅力は、そういう外見だけじゃない。降谷くんをとりまくすべてのものが洗練されている。深い知識や豊富な人生経験によって人間性が磨かれているからだろう。だから、「見ているだけでいいや」とはならない。惹かれ、近づき、その美しい人間性に触れたくなる。



 目が合うと、勿忘草色の瞳が優しく細められた。

「出ようか」

 私はデザートのシャーベットを食べ終わったし、降谷くんは山のように頼んだ品々を、もうすっかり綺麗に片付けていた。
 時計を見ると、店に入って二時間弱。ちょうどいい頃合いだろう。
 手荷物を片付けて、コートやマフラーを着込んでいると先に身支度を終えた降谷くんが嬉しそうに話しかけてきた。

「ここ、美味しいだろ? 僕は煮魚が好きなんだ。今度来たときに食べてみて」
「うん。次のときは二人前頼もうね」
「一花は何が好きだった?」
「うーん、唐揚げかなあ」
「唐揚げか」
「普段、家で作らないから。それに、ここの唐揚げは私が作るのと似ているようで全然違っていて面白かったの。お酒が合う味で、さすが居酒屋の唐揚げって感じ」

 口の中にまだ微かに残るジューシーな肉のことを思い出す。
 「家でも食べたいなあ」とぽつりと呟くと、降谷くんは顎に手を当てて何か考え込んだ。
 目を伏した真面目な表情は凛々しくて、さっきまでの可愛い笑顔と印象ががらりと変わる。ころころと万華鏡のように見るたびに表情を変えるところが好きだ。見ていて飽きることがないし、もっと色んな顔が見たいと思える。
 私が帰る支度を終えたころ、降谷くんはぱっと顔を上げると「ニンニクだな」と一人で納得した。

「ニンニク?」
「そう。一花の唐揚げと違うところ。一花は入れないだろ?」
「うん、そうだけど……。私の唐揚げのレシピ、教えたことあったっけ?」
「食べたらわかるだろ」

 事もなげに言うけど、私は食べただけで使ってる調味料わからないよ。食べ比べたわけでもないのに。

「ここは結構ニンニクが効いていたから、それで酒に合うと思ったんだろう」
「なるほどね」
「一花の唐揚げにニンニクを入れてもいいし、ニンニクが効いたレシピもネットにたくさんあるだろうから、そっちで作ってみるのもいいかもしれないね」
「はーい」

 なんとなく言った「家でも食べたい」の一言で、ここまで真剣に考えてくれるなんて。これは、次に会うときまでにニンニク唐揚げを作っておかないといけないな。
 そう思って決意表明すると、降谷くんは苦笑いを浮かべて「別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけどな」と頬を掻いた。

ヒトリヨガリ