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居酒屋を出て、駅に向かっている間も会話は途切れることがなかった。
降谷くんは話すのが好きだし、私は降谷くんの話を聞くのが好きだ。
途中、コンビニでホットドリンクを買うと、喋り足りないからと言って駅のそばの小さな公園に立ち寄った。街灯も一つしかないほどなので、たむろする若者もおらず二人占めできた。
温かいペットボトルを握り締めながらベンチに座ると、隣に腰を下ろした降谷くんが真っ直ぐに私を見つめた。
「さっき一花が僕を振ったのは、僕が安室透だから?」
声が響かないように、囁くように出された言葉にどきりとした。
「いや、そういうわけじゃないけど……。どうして?」
「だって一花、君は僕のこと好きだろ?」
否定されるとは夢にも思っていないような自信満々な表情と声音で、うっかり私も否定するのを忘れてしまった。
街明かりが、降谷くんの褐色の肌を照らしている。
太陽の神様に愛されて生まれたような容姿なのに、降谷くんは夜をまとっているときだって綺麗だ。
見惚れている間に、降谷くんは少し不機嫌そうな顔になって「どうして好きじゃないなんて嘘をついたんだ」と咎めるように聞いてきた。
「別に、嘘なんて、ついてない」
絞り出すように言うと、至極不思議そうに「好きなのに?」と首を傾げた。
「だから、好きだけどそれは友達としてで、降谷くんが言ってるようなんじゃないから……」
「一体何に遠慮してるんだ? ……いや、遠慮じゃないか、我慢? どうして?」
降谷くんは少しずつ私の心を紐解いていく。
深海のような瞳に囚われて、目を逸らすこともできない。丸裸にされるまで身を縮こませて待っているしかない。
「我慢するようなことないはずだろう、それなのに……。……もしかして僕に? 僕のために我慢している?」
その答えまで行き着いたあと、降谷くんはきゅっと美眉をひそめた。
問いかけるような語調ではあるけど、降谷くんの中でもうその答えで確定しているらしい。責めるような目で見てきた。
ついに耐えられなくなって、ふいと顔を逸らして地面を見た。
降谷くんの推理は合っている。私は降谷くんのことが好きなのに、降谷くんに遠慮して我慢している。好きになるに決まっている。降谷くんの隣にいて、好きにならない人なんていないんじゃないの?
だけど、降谷くんと新しい関係になることなんて望んでいない。
頑なに認めない私に痺れを切らした降谷くんは、強い口調で理由を問うてきた。
「私は……降谷くんと友達でいたいから」
「だから、どうして」
「それは……」
一度口を閉じて唇を噛んでから、大きく息を吸って、勢いのまま「降谷くんが、誰もいなくなったって言ったから」と吐き出した。
「は?」
「伊達くんが亡くなったあと、すごくつらそうで見てられなかった。それで私はずっと降谷くんの友達でいようって思って……」
説明を続けると、降谷くんは呆れたように「なんだ、そんな理由か」と呟いた。
私の覚悟を、「そんな理由」なんて言わないでよ。そう文句を言おうと降谷くんに向き直ったら、思った以上に真面目な表情をしていて何も言葉が出なかった。
降谷くんは目を閉じ、一呼吸置いてから目を開いた。凪いだ水面のような、すべての感情をどこかに置き去りにした瞳で私を見つめたあと、その先を薄雲った夜空に向けた。
「僕は景が死んだとき、きっとこれ以上悲しいことはないって思った。だけどそれは勘違いだった。そのあと松田や伊達が立て続けに死んでいって、僕が思っている以上に世界は残酷で儚くて呆気ないものだって知った」
単調な言葉に、当時の降谷くんの苦しみを感じて胸の奥がずきずきと痛む。
「……だから、私は降谷くんの友達でいたい。もうこれ以上降谷くんが喪うことのないように」
「それなら僕の横にいてくれたっていいだろう。僕はもう取りこぼしたくないんだ。……僕は君が嬉しいとき、嫌なことがあったとき、悲しいとき、楽しいとき、横でその感情を共有したい。一花もそうじゃないのか?」
「そうだよ。でも、そんなの友達でもできるじゃない」
今までどおり、たまにごはんに行って、どうでもいい話で笑って愚痴を吐き出して。それで十分じゃないの。
だけど降谷くんは首を横に振った。
「僕は、君を独り占めする権利がほしい」
ぎゅっと心臓が掴まれた。逃げられない。もう誤魔化せない。
「誰かと共に生きるのなら、僕は君と生きたい」