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いつまでも感情的になっていられないと何度か深呼吸して気持ちを沈め、私もベルモット捜索を再開しようとした。そう思ったのに、今度は静かな住宅街に銃声が響いた。距離は遠い。だけど、おそらくこのアルファベット・シティの中だ。
その弾を誰が放ったのかわからないけど、ここにいると巻き込まれる。一旦退避をしようとした私に、念願のベルモットからの電話がかかってきた。だけどそれは喜んでいいかわからないものだった。
「……あなたは、ファルコの方に、行きなさい」
詰まりながら、荒い息とともにベルモットは言葉を吐く。苦悶の表情がありありと目に浮かぶような声だった。それだけでさっきの銃声の被害者はベルモットだとわかる。
普段の澄ましたベルモットからは想像もできないような乱れた話し方で、呻き声まで聞こえると、さすがに心配になる。
「ねえ、死なない?」
どういう状況にいるのかわからないまま死なれるのは困るのだ。
ベルモットが通り魔に変装したまま死ぬというのは私にとって一番最悪な展開だから、なんとしても阻止したかった。なぜなら、通り魔の正体がベルモットだったとファルコに知られるとこちらが優位で事を進められなくなるからだ。組織としてはファルコをこちらの言いなりにさせたい。そして、ベルモットがライにかかりっきりになった今、ファルコを引き入れるのはほとんど私の仕事になっていた。ベルモットが原因であっても失敗すれば私も責任を問われかねない。
「こんな汚いところで死なないわよ。どうにかするわ。……それより、組織は、武器ルートを欲しているの。いい?」
「うん、ファルコは私に任せて」
まだ予断を許さない状況だろうけど、いつもどおりの軽口を聞いて安心した。
ブチリと電話の切れたスマートフォンをリュックに戻し、踵を返した。
タクシーを呼び止めマンハッタンの摩天楼を背中にブルックリン橋を渡り、少し走ったところにファルコのアパートメントはあった。
ファルコはまだ帰宅前。アパートメントの街灯の下でファルコを待つこと十数分。雨が止んだころ、一台の車が私の前に止まった。馬のエンブレムを掲げたそれから、ファルコが降りてきた。
彼は自宅の前にいる私を一瞥したけどそれ以上興味を抱かず玄関に入っていこうとする。その後ろにぴったりとついて、「アルジェントは無事に片付いたの?」と小声で問いかける。
「誰だお前は!」
「大きな音を立てたら近所の人に気づかれちゃうよ」と口の前に人差し指を立て、ファルコの部屋を指差す。
「……何の用だ」
「勧誘に来ました。あなたの素晴らしい売り物を、私たちの組織でも使わせてもらいたくて」
ファルコは凛々しい眉を訝しそうに歪め、私を見下ろす。「こんな子供が何を言っているんだ」と言いたげな顔だ。
「まあ、ただ私は交渉に来たわけじゃないから、あなたに拒否権はないけど」
言いながら私はスマートフォンをファルコに突きつけた。私にとっては真っ暗な画面を見せているだけ。でもファルコにとっては違う。
「どうして、俺とあいつの会話を!」
幻術にかかっているファルコには、アルジェントとの秘密裏の会話が聞こえている。
「どうしてだと思う? 組織に入るのを拒むのなら、今の内容をすべてリークするわ」
私の言葉に顔色を変えたファルコは、右手で顔を覆い、よろっと壁に背をつけた。
「組織って、……どこのだ? 名前は」
「それはあなたが頷くまで教えられないわ」
「……これだけ教えてくれ。イタリアの組織か?」
首を横に振ると、ファルコは目を閉じて長く息を吐いた。
難航するかと思った勧誘は、イタリアのマフィアじゃないとわかった途端ファルコが態度を軟化させて幕を下ろした。あっさり「そちらの組織に武器を回そう」と了承したのだ。
「やけに往生際がいいね。組織は簡単に裏切れないよ?」
「そろそろ個人で動くのも限界だと思っていたところだから、後ろ楯ができるのは俺としても都合がいいだけだ。それよりお前はチャイニーズか?」
「ジャパニーズだよ。……それが何か?」
「いや、まあ別に問題ないだろう」
ファルコが気にするなと話を戻した。
詳しい取り決めはジンがやるだろうから、私はただ組織を裏切らないように念を押した。そして組織に関することにすべて同意させて私の仕事は無事に完遂した。