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「ふうん。……まあいいよ、それくらい調べてあげる」
耳にあてたスマートフォンから落ち着いたバリトンの声が聞こえてくる。いつもと変わらない温度の声に、ほっと安心した。
茜さすリビングで、私はクオレの上に乗りかかって雲雀くんに電話をかけていた。
「本当? ありがとう」
「でも、そういうのは君のとこの同居人に頼めばいいんじゃないの」
「うーん、まあ、そうなんだけど……。でもなんとなく気まずくて。一緒に住んでる人に個人的なことの依頼って変な感じしない?」
「しないよ」
「雲雀くんは…… 、そうだよね」
雲雀くんに言っても意味がない質問だった。これが綱吉だったら、……いや、綱吉も「俺はリボーンに個人的な暗殺依頼なんて頼まないよ!」と脱線するか。
なんて余計なことを考えていると、ガチャリと玄関の扉が開いた。そしてドスンと堅い鞄をフローリングに置いた音と、ズサズサと靴を脱ぐ擦れた音。
「あ、透くんが帰ってきた。じゃあ、ありがとうね 。お願いします」
言い終えて通話を切るのと透くんがリビングダイニングに入ってくるのはほぼ同時だった。
浮気調査から帰ってきた透くんは、薄手のジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけると、不思議そうに「誰ですか?」と私の右手にあるスマートフォンを指差して聞いてきた。
「雲雀くんだよ」
「ほぉー、雲雀恭弥ですか……何をお願いしたんですか?」
「ええーっと……、期間限定の紅いもドーナツが食べたいな〜って! あ、そんなことより透くん、使えそうな情報をゲットしたよ!」
「雲雀恭弥から?」
「ううん、須藤竜太郎さんから」
透くんはシャツの袖を捲り上げながらキッチンに向かった。シンクで手を洗いながら、
「今日会っていた人か」と呟いた。
「それで情報って?」
今度は冷蔵庫からキャベツ、ニンジン、タマネギを取り出しながら聞いてきた。
「怪しい人がいるの。竜太郎さんのお兄さんが須藤グループの社長になって、竜太郎さんが秘書っぽいことをしているんだけど、何人か不審な動きをしているんだって。わざわざ探偵に依頼するほどじゃないって言ってたんだけど、ちょっと情報もらっちゃった」
聞き出した瀬羽尊徳、宝田太、都司信彦の名前を告げる。
その中で透くんが反応したのは宝田太だった。
透くんはキャベツの芯を削ぎ落としながら「宝田といえば杯戸市の元市長。太は確か彼の息子の名前ですよ」と教えてくれた。当たり前のように言っているけど、普通の人は住んでもない市の市長の家族の名前なんて知らない。
そんな透くんも、他の二人の名前は知らないらしい。
鍋に水を張って火にかけた透くんは、「でも、どこかの社長とか政治家の家系でしょうから、調べたらすぐにわかりますよ」とさらりと言った。
「そんな簡単なものなの?」
「まあ、僕にかかれば」
自信満々に言い切った。
ちょっと悔しいけど、見栄を張ってるわけじゃない。透くんなら本当に明日にでも彼らが何者か突き止めるだろう。
「僕は、その三人について調べればいいんですか?」
「というより、調べたら透くんの助けになるかなって。……透くんっていうかバーボンの?」
「僕の?」
「うん。……ほら、透くんって浮気調査とかが多くて、バーボン的には大丈夫なのかなって。ちょっとは組織に渡せる情報があった方がいいんじゃない?」
「前に、そういう依頼からも組織に関わる情報が得られると言いませんでしたか?」
「言ってたけど……、余計なお世話だった?」
遠回りせずに直接調べた方が早いと私は思う。だけどバーボンにはバーボンのやり方がある。私の斡旋が不必要なものだったら、これからは大人しくしていよう。
そう思ったけど、透くんはニンジンをみじん切りにしていた手を止めて、私を見ながら「そういうわけではありませんよ」と軽く笑った。
「もらえるなら、ありがたくもらいます。でも僕のやっていることにもちゃんと意味があるんですよ、と言いたかっただけです」
透くんはまた包丁に視線を落とす。
「透くんが何も考えずにやってるとは思ってないよ」
「それなら安心しました」
「今まで一緒にいて、バーボンが考えなしだったことなんてない」
そう断言したら、透くんは苦笑して「それは買い被りすぎです」と一転して私を嗜めた。
透くんは喋りながらも調理を進める。沸騰したお湯に、切っていないままの大きなキャベツの葉を三枚浸した。
「今日はロールキャベツ?」
「よくわかりましたね」
「そろそろ寒くなってきたし、キャベツを切っていないからね!」
「ふふ、愛子も探偵になりますか?」
「向いてないって言ったのは透くんのくせに」
楽しそうに笑っている透くんに「ごはんまで部屋で課題をやってるね」と言って、クオレをカーペットの上に残してリビングから部屋に続くドアを引いた。