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高校の授業が終わる時間に合わせて場所を移し、明美さんとは約束したとおり駅で別れた。
江古田高校の正門に到着すると、ぱらぱらと生徒が下校し始めたころだった。私は学ランやセーラー服の集団を見渡しながら、急いでなさそうな生徒を探して声をかけた。だけど五人に聞いても誰も猫を見た人はいなかった。
そもそも、そんなに有名ならここに通っている依頼主の子供がもう見つけているはずなんだ。
それでも地道な聞き込み調査は探偵の基本。次の聞き込みをしようと私はのんびりおしゃべりを楽しみながら歩いてくる女生徒三人組に近寄った。
「あの、少し時間いいですか? 迷子の猫を捜してるんですけど」
三人は顔を見合わせて首をかしげた。これは知らない態度だ。
ああ、また空振りか。と肩を落としていると、彼女たちの後ろからひょっこりと黒髪の少年が顔を覗かせて「猫?」と聞いてきた。
「それって毛の長い?」
「そうです! 顔のところが茶色い……」
「タヌキみたいな?」
そうそれ! と首をぶんぶん縦に振った。
「快斗、知ってるの?」
「ああ。何日か前から昼休みになったら裏門の駐輪場に来るんだよ」
女生徒に答えた少年は、しゃがんで私の掲げるスマートフォンの画面をじっと見たあと、私の頭に手を置いて「うん、やっぱりそうだ。よかったな〜」と撫でてきた。
「夕方になったらいなくなるし、てっきり家に帰ってるのかと思ってたんだ。まさか迷子だったとはなあ」
「夕方にいなくなるの?」
「ああ。確認したわけじゃないけど、見つけた初日と二日目はそうだった。……明日の昼ならまた来ると思うけど、心配なら今から捜しに行くか?」
「……うん。今日がいい!」
少年は快活な笑顔で「うっし」と勢いをつけて立ち上がり「じゃあ行くか」と私の手を握り、女生徒に声をかける。
「青子たちはどうするんだ?」
「私たちは今からカラオケ〜」
仲良さげに三人で腕を組むと、「もう予約してるから、ごめんね」と言って、ひらひら手を振って帰っていってしまった。
快斗少年は回れ右して校舎に向かって歩きだした。
玄関から校舎に入って、まず少年は私に来客者用のスリッパを出してくれた。私が履き替えている間に少年も上履きに履き替え、そしてそのまま事務の窓口から職員を呼んだ。
「すみませーん、うちによく入ってくる猫の飼い主が捜しに来たんですけど〜」
職員は愛想よく紙に名前と用事を記入するように言ってから、「来客者」と大きく書かれたネームホルダーを私に渡してきた。
素直にそれを首から下げながら、こっそりと少年に「飼い主じゃないよ」と教えた。今はその方が話が早いと思うけど、本当の飼い主はここの生徒だから少年くらいには伝えておいた方がいいだろう。
「あれ、飼い主じゃないのか?」
「うん。探偵のお手伝い」
「そこは助手じゃないのかよ」
「同じようなものでしょ」
「じゃあ助手の方がかっこいいから助手って言っとけ」
小さく笑った少年に私も笑い返し、また手を引かれて校舎内を歩きだした。
渡り廊下を通ってすぐに駐輪場が見えた。周りには木々も植わっていて自然が多い。
少年が放課後確認したときは、もっと日暮れだったらしいのでまだいるかもしれない。そう思っていたけど、ざっと見た限り猫がいそうにない。
昼間はどのあたりにいるのか聞こうと少年を見上げると、それを待っていたかのように少年はいたずらっぽく、にっと笑った。そして、すうっと息を吸うと「ふにゃあ」と一声鳴いた。
まるで本物の猫。鳴き真似なんてレベルではない、少年の喉から出たとは思えない声に、ぽかんと口が開いたままになった。
そんな間抜けな私を見て笑った少年は、もう一度、どうだという顔で鳴く。
「んにゃあ〜」
その声に反応するように、裏門の外の草むらがカサカサと揺れた。
思わず私と少年は顔を見合せ、そして力強く頷きあった。風のせいじゃない。あそこにきっと猫がいる。
草むらの揺れが大きくなり、思ったとおり草の間から猫が顔を見せた。透くんからもらった画像の猫と同じ顔つきだ。
私は猫の警戒心を解くために目を合わせて瞬きをしようとした。だけど猫はふいと顔を背けて逃げようとするそぶりをみせた。
「あっ、だめだめ!」
思わず声を上げると、猫はぴゅっと遠ざかった。
「あ〜、何やってるんだよ」
「ごめん、つい……」
「じゃあこういうのはどうだ? ……スリー、トゥー、ワン」
カウントダウンのあと、私の頭の上でポンッと小気味いい音が鳴った。
「ほら、にゃーんって言ってみ?」
「にゃーん?」
うんうん、と一人で頷く少年に首を傾げると、頭の上で何かがずれた。
そっと手を当てると、もふっとした三角形のものが二つ頭にくっついている。
「まさか……」
「猫耳。これであの猫にも警戒されないだろ」
「そんなばかな」
知らない間につけられたカチューシャを外そうとしていると、猫は遠慮がちに私の方に歩み寄ってきた。そして足元までくると観察するように私の周りをぐるぐる回り、最終的に靴を枕にして横になった。くあっと欠伸する姿は、どう見てもリラックスしている。
「え? マジ?」
目を丸くした少年が私を見てきた。
まさか私が猫に仲間と思われたなんて、そんな。
無言で見詰め合っていると、「はあ」と呆れたような溜息が下から聞こえた。
今度は二人ぴったりの動きで猫を見た。
「偶然だよね、猫が溜息つくわけないし……」
「そうだよな、そんな変なのがほいほいいるわけないよな……」
寛ぐ猫にゆっくり腕を伸ばす。猫はそれを見ているけどさっきと違って逃げない。そしてそのまま指が猫に触れた。抱き上げても嫌がりはしなかった。
「は〜、よかった。なんとか無事に任務完了だよ。本当にありがとうね」
「いいって、いいって。それより愛子ちゃんが手伝ってる探偵って、イギリス帰りのキザな坊ちゃんだったりしない?」
「え、どうだろう。イギリス帰りかはわからないけど外国の血は入ってるよ。あとキザっていうかかっこつけ? いや、かっこいいんだけどね。でも坊ちゃんって歳ではないかな。どうして?」
「いや、知り合いにそんなやつがいて……」
と苦虫を噛み潰したような表情をする少年が面白くて笑っていると、「まあ、違うみたいだからいいよ」と肩をすくめた。