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野太く響くエンジン音と、安定感のあるタンデムシートから感じる細かい振動。
襲いかかる秋風を身体を縮めて雲雀くんの背中で防ぐと、伸縮性のないジャケットやパンツが少しだけ苦しかった。
腕を回した腰はしなやかで細い。前はもっと筋肉質だったような、と思いかけてそれが人違いであると気づいた。
空はあの日と同じように嫌味なぐらい晴天で、その下をバイクで走る私たちは正反対に真っ黒だった。
お願いしていた件について雲雀くんから電話がきたのは、十月の末のこと。
「君が言っていた松田陣平の墓なら、笹川了平が知っていたよ」
電話口からペンを走らせる音が聞こえる。
「笹川くん? どうして……、ああ、ボクシング?」
松田と会っていた神社の風景が頭に浮かんだ。どんな話の流れだったかは忘れたけど、彼がボクシングをやっていたことを聞いたことがあった。ぼんやりとした松田からボクシングのイメージがわかなかったけど、無骨な手を見て納得したものだ。
「松田陣平の父親が元プロボクサーだったようだね」
「……それは知らなかった」
「君が観覧車の爆発に巻き込まれたとボンゴレに一報が入ったとき、笹川了平は松田陣平の死を知ってその父親に会いに行って、彼はその年に墓参りを済ませたようだよ。僕が松田陣平の墓を捜していると知った彼が、電話を寄越してきたんだ」
おかげで警視庁に探りを入れる手間が省けた。と、冗談か冗談じゃないのか判断しにくいことを言ってから、本題の墓地の住所を教えてくれた。
墓地に着き、バイクから降りると、雲雀くんが封筒を差し出してきた。封筒の差出人は笹川くん。受け取るとすでに封は切られていた。
中に入っていた紙を開くと、威勢のいい大きな字でお墓の位置と、「丈太郎さんによろしく」という文字が書かれていた。
「丈太郎さんって?」
「松田陣平の父親」
「ああ。……って言われても、松田のお父さんと会ったことないし」
「墓で会ったら挨拶すれば」
「うん、そうだね」
昼を過ぎた時間帯だから、もう松田の家族は墓参りを終えているかもしれない。納得して手紙を封筒に戻そうとすると、中で何かにつっかえた。
封筒を覗き込むと、中に折り畳まれた小さな紙片が入っていた。
取り出してみても雲雀くんは紙片のついて何も言わない。
開いてみると、そこには「一年前」「メイプルリーフ金貨」「強盗」「来日」という意味のイタリア語と、そしてボンゴレのエンブレムが記されている。
綱吉からの指令だ。
目を通し終わると、そのエンブレムは橙の炎を灯し、あっという間に紙片は消え去った。
何もこんな日に渡さなくてもいいものを。と、思うけど他のタイミングがないのもわかる。
今度こそ手紙を封筒に戻し、ポケットに仕舞った。
「行くよ」
「はあい」
同じような墓石が並ぶ中を歩き、ついに私は松田が眠る墓と対面した。
空いた両腕に、幻術で冬桜を出す。快斗少年に教えてもらった手品は結局修得することはできなかった。だけど松田だったら幻術の方が喜びそうだからこれでよかったと思う。私は初めて松田に幻術を見せたときの、輝く目を思い出しながらそう考えた。
すでに仏花は供えられていたけど、花立の少し空いた隙間に桜を挿す。
私が松田と会っていたのは夏だったから、私の思い出の中の松田に桜は似合わない。でも、桜の代紋を胸に死んだ松田にはぴったりだ。
私は墓の前で膝を折り、手を合わせて目を閉じた。
去年は、私が怪我をしたから来ることができなかった。そのせいで言いたいことがたくさん溜まっている。
世間は狭い。意外な人と意外な人が繋がっている。
私、景光さんのこと知ってたよ。
一年前に行った長野の話を松田にしてやった。
松田は、長野に行ったことがあるのかな。もしかしたら冬にスノーボードに行ったことがあるかもしれない。じゃあスコッチの故郷っていうのは知っていたかな。スコッチは松田に故郷のことを話して、松田はスコッチに父親がプロボクサーだったことを話していたのかなあ。
両方とも、私は本人から聞いていない。死んでから知ったこと。
スコッチに関しては仕方がないにしても、松田は私と友達だったんだから、もう少し話してくれてもよかったのに。
あの夏、私と松田はとりとめのない話をたくさんした。本当に、たいした意味のないことばかりだった。
蝉の五月蝿さに文句を言い、照りつける日差しに弱音を吐き。避暑地に行きたい、いや海に行きたい。アイスが食べたい、それよりかき氷だ。早く涼しくなってほしい、でも夏も嫌いじゃない。そんなことばかり。
神社での無駄話も楽しかったけど、松田のことをきちんと知ったのは二度と会えなくなる五分前だった。あまりにも短すぎる。