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「じゃあ、そのアザはそのときについたんだ」
「そう。だから心配しないで
明美さんは、ほっと安心したように息を吐いた。
キュラソーの特訓でついたアザは明美さんとの約束の日までに消えなかった。でも今は冬だし服で隠れるだろう、と甘く考えていたんだけど、自分では見えないふくらはぎについていた大きなアザがタイツから透けて見えていたらしく、明美さんは何があったのかと渋い顔をして聞いてきたのだ。
「よかった。てっきり誰かに暴力でも振るわれてるのかと思ったわ」
「そんな……。暴力振るいそうな人いる?」
「え? いっぱいいない?」
二人で首をかしげて顔を見合わせた。
「……だって、組織の人って怖い人がたくさんいるし」
真っ先にジンの顔が浮かんだけど、ジンなら暴力より銃。
でもジンよりリボーンの方が気軽に銃を撃ってた。主に綱吉に対して。
「機嫌損ねたら怒鳴りそうだし」
そう言われてウォッカを思い浮かべる。あれは取り引きで有利の立場に立つための恐喝。機嫌の良し悪しは関係ない。
それより昔の獄寺くんの方が、ちょっとしたことですぐ切れて、怒鳴るしダイナマイトを投げていた。
ヴァリアーなんて今でもそうだ。
「うーん、あの人たちはそこまで怖くないし短気でもないと思うよ」
「うそー」
「本当だよ。ちょっとイラッとさせたことあるけど殴られたり銃撃たれたりしたことないし」
「……やっぱり、あの人たちも子供には優しいのかしら」
真剣な顔して言う明美さんに思わず噴き出してしまった。
子供に甘いジン。まったく想像できない。
腹筋がひきつるように笑いながら、途切れ途切れに「別に優しいわけじゃないよ」と言った。もし優しいとしても、愛ではなく打算。必ず思惑が潜んでいるだろう。
ようやく息が落ち着いて、正面から明美さんの顔を見た。
「優しくないから、だから無茶なことはしないでね」
ぼんやりとダイニングに寝転がって、暮れていく夕焼けを見ていた。
空っぽの家に帰宅して、そのまま部屋に戻ることなく肢体を投げ出してあれこれ考えていた。
明美さんは、たぶんまだ迷っている。組織を抜けるか、現状維持か。抜けたって、その先に幸せがあるかもわからないのに。
それでも動き出したいという衝動はわかる。私だって無茶を承知でボンゴレに入ったのだから。どうにか悪い現状から抜け出したくて、悩んで、とりあえず一歩踏み出そうとした結果、組織を抜けるという選択になったのだろう。わかる、わかるけど。
私は「ううーん」と唸りながら頭を抱えて丸まった。
明美さんの気持ちはわかる。でも失敗すると思う。明美さんだけじゃなく妹さんも一緒に逃げるのなら、その難易度はぐんと高くなるだろうし。
私が手伝えたらいいけど、私と明美さんの関係を組織は知っている。明美さんが抜けるときに私が不審な動きをしたらすぐに関与がバレるだろう。
「はああー」
肺の底から息を吐く。
孤立無援。腹の内はバレている。戦闘もできない。そんな状態でできることなんてないよ、明美さん。
「何してるんですか?」
突然かけられた声に驚いて顔を上げると、ちょっと笑った表情の透くんがダイニングの扉を開けて立っていた。
唸りながらぐるぐる考えていたから、透くんが帰ってきたことに気づかなかった。
恥ずかしくなって、すっと身体を起こして乱れた髪を整えながら、できるだけ平然と「おかえり」と言う。
ごはんまで部屋にいようと立ち上がると、キッチンから透くんが顔を覗かせた。
「……今日は、宮野明美さんと?」
「そうだけど……どうしてわかったの?」
出かけることしか言っていないのに。
透くんは難しいクイズが当たったときのように嬉しそうに笑った。
「簡単なことですよ。普段着る服よりお姉さんっぽいデザインの服、おそらく彼女に合わせてるんでしょう? それに彼女と会うのはだいたい一ヶ月置き。そろそろ会いに行くと思ってましたから」
「当たってるけど、なんか……いやだなあ」
そんな簡単に見破られたら居心地が悪い。
むすっとすると、透くんは軽く謝ってくれた。絶対に反省はしてないし、これからもお得意の推理で見破ってくるだろうけど。
「それで、彼女は元気でした?」
「元気だよ。クレープにジェラートを二個も乗せてた」
透くんに「この寒いのに二個だよ?」とXサインして見せてから、あれと首をかしげる。
「透くんって明美さんと知り合いだっけ? ライに紹介された?」
そんなバカな、わざわざ彼女を紹介するライなんて想像できないなと思いつつも聞くと、透くんは嫌そうに顔を歪めた。
「あの男から紹介なんてされてませんが、彼女とは顔見知りです」
「ふうん」
そういえば明美さんも昔のバーボンのことを知っていたなあ。妹さん経由だろうか。
なんて考えながら、夜ごはんの支度を始める透くんに「多めに作っといてね」と声をかける。透くんはにこやかに了承して、冷蔵庫を開けながら「もう成長期ですしね」と呟いていた。
まあ、実際は筋肉を作るためなんだけどね。