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「急流滑りに、メリーゴーランド、空中ブランコ! いっぱい乗れたね」
黒のトレンチコートの裾を翻して振り向けば、後ろを歩いていたキュラソーは呆れたような顔をしつつも「よかったわね」と返した。
今日は組織が都司信彦と取り引きする日だ。
バーでジンに告げられた私の役目は、スナイパーの目になることだった。もし都司が泥参会を引き連れて来たら、組織に対する裏切り行為と見なし、鉄槌を下す必要がある。だけど人も、隠れる場所も多い遊園地だと撃つタイミングを計っている間に逃げられかねない。そこで私の出番だ。千里眼があればどこに隠れても見つけられる。
都司が一人で来ているかを確認するジンやウォッカと一緒に行動しないのは不思議だったけど、そう説明されたら納得した。
話を聞いたときウォッカには口うるさく確認後即時撤収を念押しされたけど、私はバーから出たあとすぐにキュラソーに連絡をした。もちろん、遊園地の誘いだ。
お堅いキュラソーに遊びに行こうと言っても来ないだろうから、実践練習だと適当な言い訳をした。「敵と戦うのがいつも足場のしっかりした体育館とは限らないでしょ? 外で、どういうところから襲われるとかも知っといた方がよくない?」と言えば意外と簡単に頷いた。
そして朝からトロピカルランドに来て、新しく知り合ったスナイパーのキャンティとコルンと四人で行動をしたけど、昼ごろにはジンたちが都司が一人で来ていることを確認したのでスナイパーの二人とは別れてキュラソーとの遊園地デートが実現した。
早朝からの活動を振り返っていると、そのぼんやりしている理由を勘違いしたキュラソーが「疲れたの?」と聞いてきた。
「いや、そこまで疲れてないけど……ちょっとは疲れたかな」
私は絶叫アトラクションでもうへとへとだけど、キュラソーはこれっぽっちも疲れていないようで本当に尊敬する。
「持久力が課題ね」
「そうだけど、ただ走るだけっていうのは飽きるからいやだよ」
「じゃああなたが逃げて私が追いかけるっていうのはどう?」
「鬼ごっこかあ……。それなら飽きないだろうけど、キュラソーが不審者になっちゃうよ」
持久力をつけるために長時間おいかけっこをしていたら、さすがに不審がられる。それはキュラソーもすぐに思い至ったようで、「なら、やっぱり普通のトレーニングね」と考えを改めた。
げえっと声に出しそうになったのを我慢して、とりあえず話を変えようと「お昼にしない?」と聞いた。時間はお昼を随分と過ぎたころ。そろそろ空いているだろう。
「……そうね。何を食べるの?」
足を止めたキュラソーにつられて私も立ち止まった。そしてポケットからトロピカルランドのパンフレットを取り出し、レストランを探した。
「チキン、ステーキ、パブ、ハンバーガー、イタリアンのお店があるみたい。チキンは骨付きチキンで美味しそうだし、ハンバーガーも大きくて美味しそう。イタリアンのパスタやピザも美味しそう……。ううーん、選べない」
キュラソーも私のパンフレットを覗き込み、少し考えから「じゃあイタリアンにしましょう。ここから近いし」と細い指で地図をなぞった。
目当てのレストランに着き、中に入るとトマトとハーブのいい匂いに包まれた。
お昼時を過ぎたのにまだ店内は混雑していてガヤガヤ騒ぐ声やシャッター音、カチャカチャ食器が擦れる音、それから店内に流れるポップな曲で音が氾濫している。でも、それも遊園地らしくてわくわくした。
店内を歩きながら、ちらちらとごはんを食べている人たちのメニューを盗み見る。ラザニアやリゾットも美味しそう。イタリアにいたころは、よくラザニアを食べていたことを思い出して懐かしくなった。
カウンターまで行くとキュラソーがメニューボードを見上げながら「あなたは決まった?」と聞いてきた。歩いている間にラザニアに決まったので、頷きながら「ラザニアだよ」と答えた。
「そう。……キッズセットかしら?」
「キッズセット?」
「ええ。子供用のジュースとデザート、あとおまけがついてくるみたいだけど、おまけは普通のセットにもつくみたいね」
「じゃあキッズセットにする! キュラソーは何にするの?」
「私は……クリームパスタにするわ」
「じゃあさ、セットのクリームパスタにしようよ! そうしたらキュラソーのにも、おまけがつくよ。お揃いだよ」
おまけはトロピカルランドのマスコットキャラ、トロッピーのデザインのボールペンらしい。それならキュラソーも持っていられるだろう。
名案でしょ! という勢いでキュラソーを見れば、彼女は戸惑いながらも首を縦に振った。
やった! お揃いだ! とはしゃぐとレジのお兄さんも自分のことのように喜んでくれた。
キュラソーがてきぱきと注文し、受け取ったトレーを持って空いている席に座った。リュックを下ろしてウェットティッシュで手を拭いていると、「それで私をここに連れてきたのはなぜ?」とキュラソーが冷たい声で聞いてきた。
ちりっと緊張感に包まれ、周囲のざわめきが遠く感じられた。
いまだにキュラソーの実力は未知数。能力だっていまいちわかっていない。一番怪しいのは最初にキュラソーを見たときに書類を片っ端から盗み見ていた行為。だから記憶力に関することかと思ったけど、私との会話をすべて記憶しているというわけではなさそうだった。その他、人間性も何もわかっていない。
透くんに遠回しにキュラソーのことを探ってみたことがあるけど、そもそもキュラソー
の存在を知っていないようだった。
でも、能力を知りたいからなんて馬鹿正直に言えるわけない。
「だから実践のことを考えて……」
「普段あれだけ身が入っていないあなたが、自分から能動的に実践のことを考えるとは思えないわ」
そこまで言わなくてもと思ったけど、身が入っていないのは事実だから口を閉ざした。
運動神経が並みとはいえ、それなりに鍛えた過去と経験値がある。この身体のわりに動けるとバレるのは千里眼以外の使われ方をされそうでいやだった。
だから多少手を抜いた。抜いたけど、怪我をしたくないからわりと真剣にやっていたのに心外だ。
「ただ遊びに来たわけじゃないでしょ。何が――」
「その遊びたかったっていうのが理由だったらどうする?」
キュラソーは訝しげな顔をした。
色素の薄いオッドアイが私の一挙手一投足を観察するように見つめてくる。
「遊びたかったというより、仲良くなりたかったの。いつも他人行儀だし、遊園地に来たらなにか変わるかなって思って誘っただけ。他に理由も目的もないよ」
負けじと私もキュラソーを見つめ返す。
嘘はついていないから堂々としていられた。仲良くなった先に目的はあるけど、その前の「キュラソーと仲良くなりたい」に偽りはない。
こういう嘘はバレないと、私はボンゴレで学んだし、骸を見てて納得した。
案の定、キュラソーは私の隠したかったことには気づかず、ただどうでもよさそうな声で「私とあなたは友達じゃないわ」と突き放すようなことを言ってきた。
それに私は「今はまだ、ね」と返して、少し冷めてしまったラザニアにフォークを刺した。