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ごはんを食べ終えて、次に乗るアトラクションを探しながら歩いていると、警察官が園内をうろうろしだした。
「取り引きで何かあったのかしら」
「ううん、別件だよ」
午前中に殺人事件が起き、ジンとウォッカが容疑者として巻き込まれたのは知っていた。集まった警察官は事件現場に集中していたから園内ですれ違うことはほとんどなかったのでキュラソーには報告していなかった。
今は警察官が証拠集めに奔走しているから園内に警察官が多くいるらしい。
分身を通して見たことをキュラソーに伝えれば、感情のこもっていない声で「便利なものね」と呟いた。
「まあね。それなりに気に入ってるよ」
胸を張って自慢したけど、キュラソーはちらりとも私を見ることはなかった。
それでも私が乗りたいと言ったアトラクションに付き合ってくれて、日が沈むころには私が乗れるアトラクションはすべて制覇した。
空が闇に包まれて、雲がカラフルなレーザー光線で彩られている。
それを見上げながら、遊園地だなあ、なんて当たり前な感想を考えていると、キュラソーが「そろそろ帰りましょう」と私の腕を掴んだ。
立ち止まって時計を見ると、まだ閉園には数時間ある。
「うん、でも待って。帰る前にお土産買いたいな。いい?」
「お土産?」
「一緒に住んでる人に渡そうと思って。キュラソーは誰か友達に買わない?」
「……私は買わないわ」
「じゃあ自分用のお土産は?」
「それも……」
「まあ、キュラソーはボールペンのお土産があるしね!」
笑ってそう言いながら、戸惑うキュラソーを見上げた。
まるでお土産なんて発想がなかったかのような顔。多少の交遊関係が知れたらいいなと思ったけど、私に隠したいというよりも――。
「……キュラソーって遊園地来たことある?」
「ええ」
「それってプライベートで?」
「仕事よ」
なるほど、と妙に納得した。
組織にいるのだから不思議ではないけど、お土産を買うような間柄の人間がそもそもいないのか。
「……今日も仕事みたいなもだしね。私は遊びのつもりだったけど」
何か言いたげなキュラソーに「今度は最初から最後まで遊びで来ようね」と約束しようとしたけど、もちろんキュラソーは頷かない。
かわりに私の要望どおりショップには行ってくれるようで、そちらの方に歩いていく。
どこからか漂ってくるキャラメルポップコーンの甘い香りに気を取られながらもキュラソーの後ろを追いかけていると、怪しい動きをする一人の青年を視界の端にとらえた。
黒に近い濃い茶色の髪の若い青年は、一瞬しか見えなかったけどどこかで見たことがある気がする。
遊園地に似つかわしくない表情だった青年が気になってしかたがない。前を歩くキュラソーの様子をそっと見た。油断しているようで私への注意を怠っている。
これならいける、と瞬間で判断した。
そして、ゆっくりと気づかれないように自分に幻術をかけて気配を消失させ、歩く足の速度をゆるめる。違和感のないようにキュラソーの視界から出ていく。
十分に距離をとってから、さっきの青年の走っていった方に向きを変えた。
分身を数体作ったので、青年を見つけるのは造作もないことだった。
――若そうだと思ったとおり、彼はまだ少年とも言えるような見た目。緑のアウターから紺のフードを出したファッションから考えてもおそらく高校生。そして利発そうな顔立ち。やっぱり今日、どこかで見た。
――青年はトロピカルランドの奥の方にある観覧車の方へ走っていた。
彼を追いかけ観覧車の柵を乗り越えて、普段近づくことのない観覧車の足元に着く。物陰に隠れながら青年を探して歩いていると、同じく陰に隠れている青年を見つけた。
そして息をのんだ。青年の視線の先には取り引きをしているウォッカと都司信彦、そして青年の後ろにはジンが潜んでいたから。
三つ巴の男たちの行動を固唾を飲んで見守っていたが、ジンがパイプを握りしめた。ジンが青年を見逃すわけないのはわかっていたけど、予想が的中してしまった。
「探偵ゴッコはそこまでだ」
ジンの言葉を聞いて、やっとこの青年が高校生探偵の工藤新一だと思い出した。殺人現場にいた探偵だ。
途端に体が動かなくなり、ジンがパイプを振りかぶったパイプが工藤新一の脳天に落とされるのを止めることができなかった。
ドザッと倒れた工藤新一の存在に驚いてキ司は逃げ去るが、ジンとウォッカはとどまったまま。どうやら彼がまだ生きているからとどめを刺すらしい。
ジンは工藤新一の前髪を掴み、上体を起こさせるとカプセルを一錠飲ませた。
そして都司と同じように闇に消えた。
頭から血を流し毒薬で悲鳴を上げる、正義感溢れる高校生を私は助けられなかった。
パイプくらいなら幻術でどうとでも助けられたはずだ。なのに相手が有名人だと助けたあとが大変だという考えが脳裏をよぎって動けなくなってしまった。
保身に走った自分に息苦しくなる。でも、今は自省してる場合じゃない。一刻の時間も惜しい。
工藤新一のそばに寄り、地面に膝をつく。
幸い、だいぶ朦朧としているけど意識はある。私には治癒能力はないから今すぐ助けてあげることはできないけど、今すぐ適切な治療をすれば助かるかもしれない。というよりそれに賭けるしかない。
すでにパイプで殴打されたときに、幻術で警察官をこっちに呼んでいる。
病院まで運ぶのは彼らが。私は私の今できることを。
苦しさに喘ぎ汗ばむ彼の前髪をかき分け、額に手を添える。
痛みを消失させると食い縛っていた表情が和らぎ、浮いていた四肢から力が抜けた。助けられなかったせめてもの償いだ。こんなことくらいしかできないのが歯痒いけど。
ちょうどそのとき、遠くで草を踏み締める音が聞こえた。
丸い額から手を離して乱れた前髪を整えてやり、それから立ち上がった。
私が工藤新一と一緒にいるところを人に見られると厄介だから、これ以上は付き添えない。私がここにいた痕跡が残っていないかを確認してその場から立ち去った。
キュラソーから離れて随分と時間がかかってしまった。彼女にも怪しまれないようにしておかないと。