121
結局、いろいろわからないことがわからないまま時間が進んでいる。
組織がある特定の時期までに私に力をつけたがっていること。私が遊園地に行くのを渋ったこと。特に最近気になったことがこの二つ。
遊園地の方はトロピカルランドに行けば何かわかるかと思ったけど手応えはなかった。キュラソーは何も気にしていないようだったし。
鍛えるのだってキュラソーは急いでいる様子はない。そのキュラソーの能力も不明。
わからないことだらけで頭が重い。
ううーんと唸りながら、ストレスをどうにかやり過ごすために目の前のクッキーをバリバリと勢いよく噛み砕いた。
「ゆっくり食べないと喉に詰まらせますよ」
暴食を諌めるように、正面に座る透くんは私に牛乳を勧めた。
一月にしてはほんのり暖かい昼下がり。
日の当たるダイニングでお茶会と言えばお洒落だけど、ダイニングテーブルの上にあるのは安っぽいファンシーなクッキー缶と、お揃いのマグカップに入ったそれぞれの飲み物だけ。せめてもの雰囲気作りのために、クオレを抱えていたけど、すぐに邪魔になって今は背もたれにしている。
「それにしても、僕へのお土産じゃなかったんですか?」
からかうように透くんは、私たちの真ん中に置いてある四角の缶から一枚クッキーをつまみ上げた。
薄っぺらい生地に、マスコットキャラクターが可愛くデフォルメされてプリントされている、どこの遊園地にも売っているタイプのクッキーだ。
工藤新一のもとを去ったあと、キュラソーと合流する前にアリバイ作りのために選ぶ暇もなく手に取ったものだ。
透くんが一枚咀嚼している間に、私は二枚牛乳で流し込んで「一緒に食べる方が楽しいでしょ」と笑った。
「でも、そういうときは土産話も一緒にするものでは? そろそろ誰とトロピカルランドに行ったか白状する気になりました?」
「それは置いておこうよ。とりあえず私が乗れるアトラクションは全部乗ったって話が一番の土産話でしょ」
まるで尋問みたいと唇を尖らせたら、透くんは気まずそうに目をそらした。
「別に無理に聞き出したいわけじゃないですよ。出ていくときは何も聞かなかったでしょう? でもわざわざお土産を買ってきたから隠すほどのことじゃないのかと思ったんです」
「……そう言われたら私が意地悪してるみたいじゃん」
「まあいいです。言わないってことは宮野明美と一緒ではないでしょうし」
「うん」
「雲雀恭弥は人混みを嫌うと聞いていますから、場所がトロピカルランドなら彼も違うんですよね?」
「うん、絶対行かないよ……」
そんなことがあったらオープン直後の遊園地が壊れてしまう。想像するだけで恐怖で震える。
「それだけわかれば、ひとまず相手は今は聞きません」
透くんは優雅にマグカップを摘まんでコーヒーを飲んだ。
別にキュラソーのことを言ってもいいんだけど、組織内の関係や相性を知らないからあまり口外したくない。
キュラソーにだって一緒に住んでいるのがバーボンとは言わなかった。必要ならジンがキュラソーに言っているだろうし、私から明かすほどのことじゃない。
だけど、どうでもいいような小さな隠しごとをするのはどうにも気持ち悪くて、またクッキーをバリバリ貪った。
「でも、帰ってきてから上の空だから心配なんです」
「……あー、うん。ごめん」
「謝ってほしいわけじゃありませんよ。もちろん無理に吐かすつもりでもないです。ただ、……前に言っていた『警察から情報を抜く』というのと関係があるのかと思って」
そう、それも私の心にずっと居座っているものの一つ。
でもぼんやりしていた明確な理由ではない。
「ぜーんぜん。警察のそばにも行ってないし、警察官と会ってもないよ。だから疑われるとかないから安心して」
「愛子のことだから、何かして警察に見つかるという心配はあまりしていませんが……」
「そう?」
私の実力を信用してくれたみたいだ。昔なら、きっと近づくことを反対されただろう。
嬉しくなって、へへっと気の抜けた笑い声が出た。
「でも、警察官に接触するだけならともかく、どこかに侵入するときはさすがに事前に言ってくださいね」
「うんうん。もちろんだよ。迷惑はかけられないからね」
参謀がいて私に指示を出してくれたら爆破事件の捜査資料くらい容易に入手できるし、それを警察にさとられたりしない。でも松田のことに関して作戦を考えてくれる人はいないから二の足を踏んでいる。
「上の空だったのは、……いろいろと考えることが多いなーって思ってただけだし」
雲雀くんから渡された綱吉からの指令の件は、一年前にイタリアで起こった金貨強盗の犯人が日本に逃げてきたというもの。潜入捜査中の私が表立って動く必要はないけど、とりあえずニュースは気にするようにしている。
そして最も私の頭を悩ましているのが明美さんの件。これだってどうしようもないけど、渦中に巻き込まれているから私のスタンスをしっかりと考えて行動しないといけない。ジンに怪しまれたら、この数年の努力が無駄に終わってしまう。もしかすると、ジンは私がどういう行動を取るのか試している可能性だってあるのだ。迂闊なことはできない。
本当に考えることが多くて、頭が痛む。せっかくの穏やかなお茶会もどんよりと色褪せて感じてしまうほどに。