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私の心配をよそに、ニュースの速報で明美さんの犯行は大々的に報じられた。
ジンが本当に妹さんを解放するかどうかはともかく、これでひとまず明美さんの身は大丈夫だろうと思っていたのに、その翌日の朝、ジンからの電話で明美さんの失敗を教えられた。
「どうして? 犯人は捕まってないってニュースでやってたよ?」
自室のベッドに座って、黒いクオレを強く抱き締めた。
ジンは嘲るような声で「強盗をやり遂げようと、十億が手に入らなけりゃ意味がねえからな」と言い放った。
詳しく聞けば、仲間割れを起こして一人が十億円を奪って失踪したらしい。
ぐっと奥歯を噛んだ。
やっぱり手軽に手に入る仲間は容易に裏切る。小さな心配が的中してしまった。
「でも、昨日の今日でしょ。もうちょっと待ってもいいんじゃない?」
「宮野明美が雲隠れした犯罪者を見つけられると思うのか?」
「それは、そうだけど……。でも、殺すのを決めるのは早すぎると思う」
「甘めえな」
ジンが鼻で笑った。
「待って俺に何の利益がある?」
重いプレッシャーで、朝食べたものが胃の中でぐるぐる掻き回されるような気持ち悪さを覚えた。
ジンは、明美さんを殺したがっている。組織にとってどうやらキーパーソンであるシェリーを組織から抜けさせようとしているからだ。
理由が感情によるものじゃないだけ説得のしようがある。だけど明美さんの存在が邪魔なことに変わらない。ここで返答を間違えたら、明美さんは今日中にでもあっけなく殺されるだろう。
ジンにお願いする対価として私が与えられるものは何だ。千里眼なんて元々組織の所有物。ジンが自由に使えるものだ。他に私の持っている手札なんて何もない。
頭の中で何かないかと考えを巡らせ、私は窓の外の鈍色の空を見上げた。
私にはボンゴレしかない。だけど、それを使うわけにはいかない。でも、ボンゴレからもたらされた「情報」くらいなら使ってもいいかもしれない。
「……六億円相当の金貨がイタリアンマフィアによって日本に持ち込まれたらしいの。それを私が調べて、教えるっていうのはどう? うまくいけば六億円が手に入るよ」
ボンゴレは、お金にも犯人にも興味はない。ただ、マフィアが一般人を傷つけないかどうかだけ心配している。だから犯人やお金を組織が横取りしても問題はないはずだ。
ジンは数秒考えたあと、「いいだろう」と交渉に乗った。
「ただし、待つのは二週間だ」
「え、ちょっと、それは短すぎない⁉」
抗議したけどすでに通話は切れていた。
頭を掻きむしってからベッドに倒れて、枕を叩いて八つ当たりしたけど、そんなことしていたって時間は待ってくれない。パタンと大の字に四肢を投げ出して数回深呼吸してから、むくりと起き上がる。
そして、とりあえず明美さんの状況を確認しようと電話をかけた。
やっぱり私が連絡することを予想していたらしい明美さんは開口一番に「ごめんね」と謝ってきた。けど、協力しようにも明美さんは「大丈夫だから」としか言わない。
捜索は私の十八番だけど、明美さんは私の能力を知らない。だから遠慮しているんだ。そうと思って明かそうとしたけど、その前に「私だって馬鹿じゃないから、ちゃんと協力者を作ったの。だから大丈夫」と、まるでもう解決したかのような軽やかな口振りで私が関わるのを拒絶した。
「……本当に?」
「うん。だから愛子ちゃんは、あんまりジンに反抗しないでね」
「はあ。私の心配より、自分と妹さんの心配をしてよ」
「だって、私たち姉妹の問題に愛子ちゃんを巻き込んだらバーボンに怒られちゃうじゃない」
「……どうだろう、怒らないんじゃない?」
「怒るよ、きっと」
「言っとくけど、明美さんが無茶したら妹さんとか私も怒るからね」
「うん。ありがとう」
くすぐったそうに笑う明美さんに少しだけ心が救われた。よかった。まだ明美さんは堕ちていない。
私は一度目を伏せて雨の降る異国の地に想いを馳せた。
「……私たちだけじゃないよ。ライも、怒るよ」
「怒るかなあ」
くすくす笑う声はとびきり柔らかくて、確かな愛情が含まれていた。たぶん明美さんは本気にしていない。だけど明美さんの声からは、そうであったら嬉しいという気持ちが読み取れた。私の嘘が、明美さんの生きる原動力になってほしい。何があっても諦めないでほしい。
そう思って、また言葉を紡ぐ。
「私はライに言いたいことがあるけど会いに行けないから、明美さんが無事に組織を抜けたら私の代わりに文句を言いに行ってね」
そして、できる限り陰から手を貸そう。協力者とやらが解決する時間稼ぎくらいしかできないけど。